赤星憲広が「走」のイップスを体験。
「盗塁にはスランプが存在する」 (2ページ目)
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赤星の盗塁は、基本的に「グリーンライト」だった。つまり、ベンチからの指示がなくても自分の判断で「いける」と思えばいつでも走っていいのである。とはいえ、いつもなら走るタイミングで赤星がスタートを切らないとなると、ベンチも打者も異変を感じずにはいられない。打者は赤星がスタートを切りやすいように待球するため、カウントを悪くしてしまう悪循環もある。赤星は申し訳なさを感じながら、「走塁にスランプはないかもしれないが、盗塁には確実にスランプが存在する」と実感していた。
そんな赤星を救ってくれたのは、当時の岡田彰布監督だった。スタートを切れない赤星に対して、ベンチから「盗塁」のサインを出したのだ。赤星は内心「マジか......」と不安を覚えながらも、腹を決めてスタートした。盗塁は見事に成功。それで吹っ切れた赤星は、再びスタートが切れるようになったという。
「完全にメンタルをやられていたので、監督に背中を押していただきました。グリーンライトでアウトになると、なかには『なんでそのタイミングで走るの?』と言い出す人もいるんですよ。こちらからすると、『じゃあ任せるなよ!』と思うんですけど。選手に任されるだけ、責任ものしかかってくる。盗塁は誰もができるわけじゃない、特殊能力。だから指導者に理解されないと、スランプを引き起こす原因になりやすいのかなと感じます」
イップスにまつわるさまざまな事例を通して、赤星は人間のもろさを痛感するようになった。イップスの選手を見かけると、赤星は決まってこう語りかけた。
「『なんで俺だけ』と思うなよ。結構いるものなんだよ。ここからまた試行錯誤して、技術を高めていけばいい。ステップアップのひとつだと思えばいいんだよ」
イップスの思考が痛いほどよくわかるからこそ、仲間を思いやることができた。イップスに苦しむのは選手だけではない。時には打撃投手もイップスに陥るケースがある。
打撃投手が3球連続でボール球を投げた時、赤星はいつもこう言っていた。
「次はエンドランいきます」
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