2020.01.28

赤星憲広が「走」のイップスを体験。
「盗塁にはスランプが存在する」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

連載第25回 イップスの深層〜恐怖のイップスに抗い続けた男たち
証言者・赤星憲広(3)

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 2009年に現役引退した後、自身が送球イップスだったことを認めるようになった赤星憲広は、世間の「イップス」のとらえ方にある違和感を覚えているという。

「スローイングのイップスが圧倒的に多いことは間違いないんですけど、僕は野球の『走・攻・守』のすべてにイップスがあると思います。盗塁のスタートを切れなくなることもあるし、チャンスになるとバットが出ずに固まってしまったり、バントが急にできなくなったり。あとはフライを捕れなくなる『フライイップス』もいました」

現役時代、盗塁のスタートが切れない赤星憲広氏は当時の岡田彰布監督に救われたという 赤星が見てきたフライイップスの選手は、最初は太陽の光が目に入ったり、強風のいたずらで捕り損ねたことをきっかけにイップスになったという。大事な場面で落球した心理的ダメージが重くのしかかり、そのうち簡単なフライも落としてしまうようになる。フライに備えてグラブを構えただけで、手が震えて捕球がままならなくなるのだ。

 フライイップスに苦しむ選手に、赤星は「手を出すのを遅らせてみたら」とアドバイスを送っていたという。その理由はこうだ。

「フライイップスになる選手は、だいたい『捕りたい』という思いが強くなりすぎて、グラブを出すのが早いんです。そうすると腕は緊張して固まるし、手が視界の邪魔になりやすいんです」

 どうしても早くグラブを差し出してしまう選手には、「捕る直前まで両手を後ろで組んでおく」という練習や、「背面キャッチ」の練習が有効だという。背面キャッチはボールとの距離感をつかめていなければ、捕球できないからだ。

 赤星は9年間の現役生活で通算381盗塁をマークし、盗塁王には5回も輝いた。そんなスピードスターでも、現役時代に一度だけ「盗塁のスタートが切れない」というスランプに悩まされたことがある。

「それまではアウトになろうが果敢に走っていたのが、3回連続で盗塁に失敗して『これ以上アウトになりたくない。4回目はイヤだな......』と思ってしまったんです。そこで迷いが生じて、一歩目を踏み出せなくなってしまいました」