榎田大樹に理想的な球速差の球種。
その投球術にプロの醍醐味がある (2ページ目)
そうした土台のもと、ストレートの球速が時に140kmに満たない榎田は、強気に内角を攻めていく。その投球スタイルは"本格派"と"技巧派"を兼ね備えたハイブリッドのようだと伝えると、「まあ、本格派とは......」と苦笑いしながら、自身の持ち味を説明した。
「正直、自分が技巧派とも本格派とも思いません。それは他人が評価するものなので。やっぱり、ベースは真っすぐです。それをいかにちゃんとコーナーに、自分が思い描いているラインを出していけるかを意識しています」
5月2日の日本ハム戦では、ストレートが140km に達したのは数球だった。それでも、左右両打者の内角を果敢に突き、外角のストレート、変化球の威力を相対的に高めていく。
ただし、単にストライクゾーンを広く使えば抑えられるわけではない。当然、その裏には一流"技巧派"の技もある。
阪神時代、一軍で活躍するために習得したカットボールは、西武に来てバリエーションを増やした。握り方は同じだが、リリースの際に人差し指と中指で少しひねりを入れ、スピードを落とす代わりに横滑りを加えようと去年から投げ始めた。
捕手がカットボールのサインを出した時、自身の判断で投げ分けている。たとえば2日の日本ハム戦では、杉谷拳士の第1打席の2球目、このボールで三塁スタンドに飛び込むファウルを打たせた。
「あそこに飛んでくれるのは、自分のイメージどおりのボールを投げられているからだと思います。同じ軌道でも大きく曲がるとか、奥行きを使うのはすごく大事。自分にとって同じ球種でも、相手のイメージのなかで違う軌道になれば、それによって内角(で抑えるため)のスペースも広がると思うので」
18.44メートルの距離で投手に対峙する打者は、ホームベースの約7メートル先で球種を判断しているとされる。それを投手が逆利用するのが、ピッチトンネルという攻め方だ。
投手は打者から7メートルの地点くらいまで、異なる球種を同じような軌道で投げて幻惑させる。打者はフォーシームが来ると思ったら、実は球速差の少ないカットボールやツーシームで、バットの芯を外されるという具合だ。
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