「俺を地獄に落とすのか」田尾安志は楽天監督就任のオファーに困惑した (3ページ目)

  • 木村元彦●文 text by Kimura Yukihiko
  • photo by Kyodo News

「以前からマーティ・キーナート(楽天初代GM)からアドバイスを求められていて、それで最終的にやってくれないかとオファーを受けたわけです。最初は『僕を地獄に落とすのか』と答えたのですが(笑)。あの(球団側と選手会がもめていた)時の渡邉恒雄会長の『たかが選手が』という酷い言葉も気になっていましたし、守らないといけないものがあると考えたんです。三木谷さんには、『企業名をユニフォームに入れないというのはどうでしょうか。メジャーリーグに倣って』と提案し、『それは良いアイデアですね』と言ってもらえて、面白いオーナーだなと思ったのも引き受けた要因のひとつです(結局、企業名はユニフォームに入ることになる)」

 今年15年目を迎える東北楽天イーグルスであるが、不思議な因縁で今季からチームの監督に就任した平石洋介は、田尾がドラフト7位で最後に指名した選手である。この選択が無ければ平石の人生もまた変わっていたはずだ。誰がどう見ても最下位になるチームを引き受けた田尾が掲げたテーマは「何とかプロのレベルと言える最下位にまで(チーム力を)持っていって次の監督にバトンを渡す」ということだった。

 開幕戦こそエースの岩隈でロッテに勝利したが、2試合目は26対0という歴史的な敗戦。以降も連敗は続いた。監督に対する批判は覚悟の上であったが、予想だにしなかったことが起こった。

「どれだけ負けても東北のファンの人たちがものすごく暖かく応援してくれたんです。ヤジる人が居なかった。僕は中日、西武、阪神と現役をやりましたけど、ダメだとヤジられるという文化で育って来ましたから、これは嬉しかったです」

 田尾は自らのバッティング指導を通じて徐々に選手を再生、もしくは才能を開花させていった。オリックスを自由契約になっていた山崎武司に関しては、入団前からスイングを直せば打てると確信していた。体重を後ろ軸にして打つようにアドバイスを送ると、山崎は新境地を開いていった。その潜在能力に気づき、阪神とのトレードで獲得した沖原佳典もまた、移籍して1年目で.313の高打率をマークした。

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