「引退試合でスタメンだったら...」
後藤武敏が語る松坂大輔との舞台裏 (4ページ目)
―― 引退セレモニーでは後藤さんも涙でしたが、松坂投手も泣いていました。
「引退試合の前日に一緒に食事をしたのですが、『もし明日、マウンドに上がっていたら絶対に泣いてしまうし、普通の精神状態でいられないから自分のボールは投げられないだろう』と言っていたんです。でも、これまで松坂の涙って一度も見たことがなかった。高校時代も。だけど、引退セレモニーの時に花束を持ってきてくれた松坂が号泣していた。『まさか......』と思いましたよ。あの涙で、余計に自分のなかでも感じるものがありました。
そして引退セレモニーの時は、もうひとついい話があったんです。松坂は僕がグラウンドを1周するまで残ってくれていたけど、中日は試合後の移動があるから先にバスで出ることになっていたんです。松坂は『僕はタクシーで追いかけます』と言っていたらしいのですが、じつはバスが2台とも待っていてくれていたみたいで。監督やコーチも乗っているのに。それを聞いて、また感動しちゃって。僕は浜松出身で、子どもの頃は中日ファンでしたから。それで中日のことをまた好きになってしまいました(笑)。
いま思うのは、やっぱり僕としてはそういう場(引退試合)ではくて、松坂と真剣勝負がしたかったんだと思います。先程もお話したように、甲子園での言葉を聞いて、勝負できなくてもその気持ちだけで十分だって思えました。自分のなかで、さらに区切りをつけられた。救われたと思っています」
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