森本稀哲「引退試合の奇跡」を生んだ、プロ17年間の全力プレー
森本稀哲インタビュー(前編)
「最後の攻撃」を前にして、右翼手の森本稀哲はオーロラビジョンを見つめ、何番の打順から攻撃が始まるのかを確認した。
「(塁に)4人出ないと自分まで回らないか......。なんとか3人出てもらって、ネクスト(バッターズサークル)に立てればいいかな」
昨シーズン限りで17年間のプロ野球生活に別れを告げた森本稀哲
森本の打順は7番。攻撃は1番から始まることになっていた。せめて観衆から姿が見える、ネクストバッターズサークルに立ちたい。そんなことを考えながら守備からベンチに戻ると、誰ともなくこんな声が聞こえてきた。
「稀哲さんまで回せ!」
2015年9月21日、森本は西武球団事務所で記者会見を開き、今季限りでの引退を表明した。一度見たら忘れないスキンヘッドの風貌に、常にファンサービスを忘れない明るいキャラクター。全国区の知名度を誇る森本だが、レギュラーとしてシーズン通して活躍したのは日本ハム時代の2010年が最後。西武移籍2年目の2015年シーズンは一軍出場も限られ、長い二軍暮らしが続いていた。
プロ17年目、34歳の決断。そんな森本に球団から「引退試合」の提案が持ちかけられた。クライマックスシリーズ進出をかけて激しい終盤戦を争うチームが、在籍わずか2年の"外様"に引退試合を用意するのは異例といえる。しかも森本はレギュラーではなく、2年目に至っては一軍でヒットを1本も打っていない選手なのだ。森本自身、引退試合は「まったく考えていなかった」と驚きを隠さない。
引退試合は9月27日の楽天戦となり、森本は8回表から右翼の守備についた。チームはリードしており、8回裏の攻撃が最後になる可能性が高かった。そして西武ナインは「稀哲さんまで回せ!」を合言葉に猛攻を開始する。
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