阪神一筋22年。桧山進次郎が「代打の神様」と呼ばれるまで (5ページ目)

  • 岡部充代●文 text by Okabe Mitsuyo
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 虎の生え抜きとして22年の現役生活を全うできたのは、その後、チームが強くなり、桧山自身もはい上がって、ファンと喜びを分かち合える状況になったからだ。

「チームが強くなると、ファンの人たちの見方も変わってきた。それをグラウンドの中で、肌で感じることができました。僕の波乱万丈の野球人生と、ファンの気持ちがリンクしていたと言うか、一緒に歩んできた感じですね」

 その思いはファンも同じだろう。いいときも悪いときも、ともに歩んできたと思える桧山だからこそ、最後の瞬間まで声を枯らして応援し、引退に涙したのだ。

「ひとりで何人分もの経験をしてきた」と振り返った濃密な22年のラストシーンはまた、出来過ぎなくらい濃密なものだった。

 広島とのCSファーストステージ第2戦。5点ビハインドで敗色濃厚な9回裏二死から、4番・マートンが執念のヒットでつなぎ、桧山に現役最後の打席をプレゼントしてくれた。「代打・桧山」のコールにスタンドが沸く。そのボルテージは過去最高だったに違いない。そして、1ボールからの2球目をバットに乗せ、体をくるりと回転させて放った打球は、桧山が愛し、愛された阪神ファンの待つライトスタンドへと吸い込まれた。

「もう一度、打てと言われてもできない。22年間で一番のホームランだったかもしれない」

 桧山自身が驚いた一発は、野球の神様が打たせてくれたものだったのだろうか。もちろん、そう思いたい部分もある。しかし、そこにたゆまぬ努力がなければ、神様は決して微笑んでくれない。野球の神様を振り向かせたのは、桧山進次郎自身だった。

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