連続写真で見る「松井裕樹、奪三振のメカニズム」 (2ページ目)
吉井理人の解説「強い球を投げられる理想の投球フォーム」
①~③にかけて、キャッチボールをしているような感じでまったく無駄な力が入っておらず、リラックスしたいい状態です。そして④あたりから一気に加速していくのですが、このフォームが素晴らしい。これから腕を振りにいく準備ができていますよね。ここの形がしっかりできているピッチャーは、その後もスムーズに体重移動ができ、リリースも安定してきます。
そして特筆すべきポイントは⑥です。右足でしっかりと地面を押し込んでいて、ボールを持っている手が顔に近い。これが顔から遠い位置にあると、パワーがロスしてしまうので強い球がいかない。それにケガの心配も出てきます。でも、顔の近くにあれば腕も上げやすいし、肩やヒジへの負担も少ないです。指導者によっては、体を反らしすぎという意見もあると思いますが、松井投手のように真上から投げ込む投手は、これぐらい反らさないと上から投げられません。⑥を見ていると、左右の違いはありますが、野茂英雄(元ドジャース他)にそっくりですよね。これだけ胸を張って投げられたら、強いボールを投げられます。野茂もそうでしたが、松井投手も肩甲骨や肩関節が柔らかいのでしょう。
⑦での注目は右足と右手です。普通、体を反って投げると、踏み出す足が開きやすくなってしますんですけど、松井投手の右足はしっかり内側に入っていますよね。そしてグラブを持つ右手も、内側に入っている。もしこれがほどけてしまうと、体も開きやすくなりますし、力が逃げてしまう。でも松井投手は右足と右手でしっかりとカベを作っているので、体が開かないし、切り返す力も強い。それにリリースの位置も高いですし、体全体を使って前で離そうとしている。実は、これが難しいんです。プロでも、前でボールを離せといえば、腕だけで離そうとするピッチャーが多い。これは高等技術です。
⑧~⑩のフィニッシュですが、⑧を見れば右足が突っ張って、上半身だけで投げているように見える人もいるかもしれません。でも、それはまったく逆で、下半身のパワーを上半身に伝えるためにこういう動きになっているんです。これは下半身を使っている投げ方なんです。⑩で少しバランスを崩していますが、これはこの投げ方なので仕方がありません。無理にバランスよく投げようとする必要はないと思います。
このフォームを見る限り、悪いところは見当たりません。連投が続いたり、疲れが溜まってきたりすると、軸が傾いて、腕の位置が下がってくる可能性はありますが、体に柔らかさと強さを感じるので、それほど心配することはないと思います。とにかく、強い球を投げられる理想的なフォームと言えます。スライダーのキレも抜群ですが、強いストレートを投げられるからスライダーも生きてくると思います。体ができてくれば、もっと球速も上がってくるに違いありません。高い将来性を感じますね。
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