2013.07.09

野球を辞めることも考えた斎藤佑樹が、
今、戦っている「幻想」

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Nikkan sports

一軍復帰に向けて調整を続けている斎藤佑樹 珍しく、彼はセンテンスの中で同じフレーズを2度、繰り返した。

「球速を見られてしまうとどうしても難しいんで、120キロ台の真っすぐでも打ち取れましたし、球速を見られてしまうと難しいんで......」

 球速を見られてしまうと難しい――このフレーズに、今の斎藤佑樹の葛藤が象徴されているような気がした。

 2013年7月7日。

 右肩痛からの復帰に向けて、斎藤が3度目の実戦マウンドに上がった。織姫と彦星もうんざりするような暑さの中で行なわれた、千葉県鎌ヶ谷市のファイターズ・スタジアムでの、ファイターズとタイガースのファーム交流戦。斎藤は2番手として3回から登板した。

 3イニングスを投げて、被安打1。その1本がホームランとなり、失点1。

 悪くない内容ではあったが、見るものにはストレートのスピードが物足りなく映ったのだろう。打者10人に投じた21球のうち、ストレートは14球。うち、135キロを超えたのが5球、マックスは136キロ。そのスピードについて報道陣に問われた斎藤は、冒頭のフレーズを2度、繰り返したのである。

 今、斎藤は球速と戦っている。

 誤解しないで欲しいのだが、彼は『もっとスピードを出したい』ともがいているわけではない。今の斎藤が戦っているのは、球速に対する"先入観"である。

 今の自分にはまだ腕を振ることに怖さがあって、どこかで制御してしまっているんじゃないか。

 ならば、新たに取り組んでいるフォームでどのくらいまでスピードが出るものなのか。

 それが何キロであったとしても、そのスピードで一軍のバッターと対峙(たいじ)できるのか。

 現在の斎藤に、肩の痛みはない。右腕も自分自身では100パーセント、振っているつもりだ。それでもスピードが136キロまでしか出ない。この現実を、どう受け止めればいいのか。斎藤が戦っているのはここのところだ。実戦に復帰した後、斎藤がこんなふうに話していた。