【WBC】笑顔に隠されたキャプテン・阿部慎之助の決意 (2ページ目)
宮崎合宿から、練習中は和気あいあい。強化試合のベンチでも笑顔が覗(のぞ)く。それも、誰かがムードメーカーとなって雰囲気を盛り上げるというような、ベンチが一体となった笑いではない。仲のいい選手同士がベンチの中でいくつかの塊(かたまり)を作り、それぞれの話題に笑みを浮かべている。
それがいいのか、悪いのか。
田中将大、前田健太、坂本勇人ら、チームの中で存在感を示す選手たちが20代前半ということもあって、今回の日本代表は若いチームに見えるかもしれないが、前の2回よりも平均年齢は高い(第1回は28.2歳、第2回が27.9歳、今回は29歳)。今の若い選手は露骨に緊張感を表現するのをよしとしないとか、楽しんでやる方がカッコいいと思っているのかもしれないとか、いろいろ思いを巡らせてみるのだが、やはり日本代表に笑顔は馴染まない気がしてならない。
思い出すのは、第1回のWBCに出場し、アテネ、北京と2度のオリンピックで日本代表のキャプテンを務めた宮本慎也の言葉だ。彼は第1回WBCが終わった直後、こんな話をしている。
「日本代表なら合宿に入ってすぐに緊張感というものが高まっていかないといけない。代表戦にリラックスはいらないと思うんです。みんな追い詰められながら、それを必死で消化しなくちゃいけないわけで、リラックスなんかできっこないんですから。何かしらの不安を抱えながら試合に臨むのが代表戦ですし、意識を高く持ってやらないと、世界では戦えません」
もちろん、今の阿部に意識の高さは十分、備わっている。
ひとり、球場に現れて体のケアをしているのもその表れだし、本番直前の宮崎合宿で5人が落ちるという理不尽な状況の中、落ちるかもしれない選手も含めた全員を集めて食事会を開き、「ここにいる33人、 全員が侍ジャパンです」と語りかけたのも選手の結束力を強めたと思う。チームにあれこれと気を遣っている阿部が、正捕手としてデータを頭に叩き込んで投手陣を引っ張り、4番として打線の中核を成し、さらにはキャプテンという重責を担っているのだから、さらにピリッとした緊張感を生み出せとまで注文するのが酷な話だと言うことは重々、承知している。それでもぬるいままのチームに結果が伴うとは、どうしても思えない。阿部自身は、キャプテンに指名されたことについて、こんな話をしていた。
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