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【WBC】笑顔に隠されたキャプテン・阿部慎之助の決意 (4ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 小内慎司●写真 photo by Kouchi Shinji

 普通に振る舞えば目立つことを承知の上で、イチローはあえてアクセルをゆるめることをしなかったのだ。イチローはあえて目立つ場所で旗を振りながら、先頭を走ろうとしたのである。

 宮本は、日の丸をつけたチームのキャプテンに求められる“キャプテンシー”について、こう話していた。

「それは、普段の行動じゃないですか。野球のプレイというより、身なりとか日々の姿勢だと思います。今は自由とか、自己主張とか、そういうものが大事だと言われますけど、どこの社会に行ってもルールがある。それを守らないと組織はうまく運ばないと思います。選手の中のルールは、キャプテンが作らなくちゃいけない。日本代表は即席のチームですから、そのルールを率先して守ることが求められると思います。キャプテンに『今日はいいか』というのはないと思うんです」

 イチローにも阿部にも、「今日はいいか」はあり得ない。しかし、ふたりのリーダーシップは明らかに違っている。阿部がこう話した。

「試合に入っていかなければ、本当の意味でチームはひとつになれない。国際大会って、すごい選手がいっぱいいますし、上には上がいる、もっと練習しなくちゃうまくなれねえなっていうのをわからせてもらえるんです。そういう舞台でしんどい試合が続けば、みんな同じ方を向くと思いますよ」

 イチローのリーダーシップが、戦闘機のジェットエンジンだとしたら、阿部のリーダーシップはジャイアンツで発揮されたような、巨大戦艦を動かすエンジンのようなものなのかもしれない。旗振り役を兼ねて先陣を切るイチローが背中でチームを引っ張ったのだとしたら、阿部は戦国時代の大将のように後方にどっかと陣取り、懐(ふところ)の広さでチームを前に押し出そうとしている。ならば、阿部がキャプテンを務める日本代表は、出足は鈍くとも、次第にその地力を発揮するはずだ。阿部が続ける。

「ネガティブなことを考えていたら、体も動かなくなってしまうじゃないですか。笑顔があっても、心の奥では、ちゃんと、ね。僕自身、山本浩二監督と自分の北京での借りを返すという気持ちは持ってますから、そうやってポジティブに考えた方が、いい結果が出ると思っています」

 3月2日、阿部の動かす巨大戦艦は、ゆっくりと大海へ進み出ようとしている。

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