【プロ野球】長引いた二軍生活のワケ。斎藤佑樹の歯車を狂わせた「テーマ」と「結果」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • 益田佑一●写真 photo by Masuda Yuichi

 周囲を納得させ、チームバランスを保つためにファームで投げさせる。同時に、斎藤の未来のために、結果よりも自分自身のテーマを優先させる。

 これが、このときの栗山監督の出した結論だった。しかし、斎藤には伝えなかったものの、栗山監督の中には当然、2回の登板でそれなりの結果が残るという計算はあったはずだ。周囲を納得させるためにファームへ行かせたのだから、ある程度の結果は必要だった。この栗山監督の微妙な匙(さじ)加減が、チームにとってではなく、斎藤の2年目にとって、もったいないボタンの掛け違いを生んでしまったような気がしてならない。

 8月4日、鎌ヶ谷。

 斎藤は、イースタン・チャレンジマッチのマウンドに上がった。イースタンの公式戦ではなかなか出場機会を得られない各球団の若手が集った混成チーム、フューチャーズが相手だ。

 この試合、斎藤は原点に戻ろうとした。

 プレートの真ん中を踏み、ストレートとスライダーをシンプルに、リズムよく投げる。立ち上がりから4回までを、斎藤は3人ずつで抑えた。ストレートがコーナーいっぱいの低めに集まり、アウトローのスライダーもうまく振らせることができていた。変化球でカウントをも取れたし、相手バッターの懐(ふところ)も積極的に攻めた。5回に初ヒットを許したものの、予定していた5イニングスを被安打1の無失点、58球という完璧な内容で投げ終えた。

 結果を求めてのマウンドなら、ここで降板すればよかった。しかしテーマを消化したい斎藤と、消化させたい首脳陣は、続投という選択肢を選ぶ。

 それが、セットポジションからのピッチングだった。6回はランナーなしの先頭バッターからセットで投げた。一軍ではできない、あり得ないシチュエーションでのピッチング。斎藤にこういう舞台設定はそぐわない。斎藤がテーマを実践し、自分のものにできる場は本来、ブルペンでもなければファームでもない。にもかかわらずファームで、あり得ない状況設定をして投げるのは、緊張感を伴う一軍の実戦とかけ離れた、単なる練習だ。

 案の定、斎藤はリズムを崩し、バランスを崩して連打を浴びてしまう。6回、ヒット5本を打たれ、5失点。5回までに残せたはずの満点の結果は、6回の続投によって一転、ゼロに等しいものになってしまった。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る