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【MLB】菅野智之のさらなる可能性 オリオールズ投手コーチが語る信頼関係を築く過程と強み (2ページ目)

  • 杉浦大介●取材・文 text by Sugiura Daisuke

【もっと理屈っぽい人かと思っていたが......】

――今季のオリオールズはプレーオフ進出が難しくなり、そのおかげもあって菅野投手も7月のトレード期限前に放出されるのではないかとの噂もありました。ご存知のとおり、菅野投手は日本ではずっと読売ジャイアンツ一筋で投げ続けてきた投手。ここでトレードの噂に取り巻かれたことは、考え方に何らかの影響を与えていたと思いますか?

DF : トモ個人については断言できないが、チーム全体にとって大きな影響はあった。7月に9人がトレードされ、チームの心臓部を失ったようなものだ。誰にとっても、それが影響しないはずがない。難しいのは"存在しないかのように振る舞うこと"で、逆に"存在を認めたうえで対応すること"が一番簡単なんだ。

 選手たちはトレードを自分でコントロールできず、それはトモも同じだった。誰もトレード拒否条項を持っていないから、誰にでも可能性がある。成績が上がらず、地区の大半のチームに後れをとっていれば放出の現実味は増す。我々ができるのは目の前のことに集中することだけ。選手の一貫性、スタッフの一貫性を保つ。それしかなかった。トモが直接私に不安を口にしたことはなかったが、人の心を読むのは私の仕事だ。だからこそ、次の登板やブルペンに意識を向けさせ、現在に集中させることを心がけた。

――菅野投手はチームのスタッフに信頼を寄せており、特にあなたとの関係は非常に良好に見えます。この信頼関係はどうやって築き上げたのでしょうか?

DF : オフシーズンの間からエージェントを介してアプリでつながり、Zoomで何度か話した。獲得の過程から、どうやってここに辿り着いたのかを学び、トモの全体像を理解しようと努めた。1年しか契約がないかもしれないのだから、1日1日を無駄にしたくない。日本での輝かしい実績――投手としての実力、守備力、耐久性、長いキャリア。そのすべてを持つ選手と過ごせるのは特権だし、できるだけ多くの時間を共に過ごし、学びたいと思ってやってきたよ。

――菅野投手とのやり取りで意外に思ったことや印象的な話は?

DF : もっと理屈っぽい人かと思っていたが、実際はすごくシンプルだ。会話もすぐに行動に移す。経験豊富だから"こういう時はこう投げる"というこだわりが強いのかと思ったが、実際は何にでもオープン。むしろ"これで大丈夫?"と、こちらが心配するくらいだ。トモは人間的にすばらしく、自分がアメリカで経験が浅いことを理解していて、我々の経験を取り入れようとする。そのバランスがよかった。関係を築いて信頼し合うようになってからは、時に厳しいことも率直に言い合える。今は本当にいい関係で、シナジーとつながりを強く感じている。

――35歳という年齢も考え、菅野投手がメジャーで地位を確立できる資質はどのくらいあると感じていますか? 今後、さらに何か加えるべきものはありますか?

DF :何かを"加える"必要はないと思う。今後もやるべきなのは、"今やっていることを続けること"だ。年齢を重ねれば回復や体力の問題は出るが、トモはトレーニングやコンディショニングに手を抜かない。だから続けられると思う。彼はメジャーに適応し、我々も彼から学んできた。特にこの2カ月、トモは非常に充実しているよ。

著者プロフィール

  • 杉浦大介

    杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)

    すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう

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