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イチローと野球殿堂の地・クーパーズタウンとの知られざる絆 「自分の心を浄化してくれる特別な場所」 (2ページ目)

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton

 イチローはバットを手に持つと、いきなり素振りすることはせず、まずは職人の技術を確かめようとした。

 右手でバットのグリップを持つと、左手で芯の部分を軽く叩き、音を確認した。その音を聞いたイチローは目を見開き、「今まで聞いたなかで最もきれいな音だ」と称賛した。さらに、「このバットはまるで金や銀でつくられているかのようだ」とまで言い、その精巧さに感銘を受けた。

 アンデルソンにとっても、イチローとの時間は忘れられないものとなった。

「イチローのように、バットの音を確認する選手を見たのは初めてでした。彼は、そのバットの鼓動を聞きたかったのでしょう。ここに展示されているいろいろな道具に触れることで、彼は深く感動してくれました。彼にとってクーパーズタウンに来ることは、旅行のついでではなく、聖地巡礼の旅であり、偉大なる選手たちに敬意を示すためのものなのです。私はイチローのその姿勢を、心から尊敬しています」

 この時までイチローにとってシューレス・ジョーは、長年破れることのなかった記録を持つ過去の選手にすぎなかったが、この日を境に深い絆で結ばれた。野球殿堂がくれた新しい発見に感謝し、クーパーズタウンを去った。

【所有する道具や記念品をすべて寄贈】

 その後もイチローはクーパーズタウンに6回も訪れ、ジョージ・シスラーだけでなく、ウィリー・キーラーなど、ほかの殿堂入り選手とも絆を結ぶことになった。

 多くの現役選手が博物館を訪れるのは多くても一度というなかで、イチローの通算7回というのは異例の多さである。かつてイチローはクーパーズタウンの魅力について、こう語っている。

「今の時代に生きていると、野球に対する純粋な気持ちが薄くなっていく危険性がある。お金なんかも絡んでね。本来、好きで始めた野球が仕事になり、職業意識が必要以上に強くなってしまっているように感じる。本来の純粋な思いとはかけ離れた気持ちで野球をやっている選手が多い環境のなかで、クーパーズタウンは自分の心を浄化してくれる特別な場所である」

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