検索

イチローと野球殿堂の地・クーパーズタウンとの知られざる絆 「自分の心を浄化してくれる特別な場所」 (3ページ目)

  • ブラッド・レフトン●文 text by Brad Lefton

 現役中、イチローは野球殿堂博物館に多くの記念品を寄贈するようになった。その数は34点にも及び、これは現役選手としては最多だったという。

 そのなかには、2004年の最終戦で2本のヒットを放ちメジャー新記録となるシーズン262安打を達成した際に使用したバットや、2007年のオールスターでMVPを受賞した際に着用していたキャップと球宴初となるランニングホームランを打った時のボール、マイアミ・マーリンズ時代の2016年に史上30人目となるメジャー通算3000本安打を達成した試合で着用していたユニフォームやスパイクなど、貴重な品が多く含まれている。

 なかでも2013年10月10日に自身6度目の訪問となった際に寄贈されたモノは、歴史的逸品である。

 同年8月21日にニューヨーク・ヤンキースの選手として臨んだ、ヤンキースタジアムでのトロント・ブルージェイズ戦。イチローはR.A.ディッキーのナックルボールを捉え、レフトへシングル安打を放った。これが日米通算4000本目の安打となり、ピート・ローズ、タイ・カップにつづき、史上3人目の4000本安打達成者となった。

 すると、その歴史的快挙を成し遂げた際に記念となるものの何かを寄贈してくれないかと、博物館から依頼が来た。イチローは慎重に考えたうえで、思い入れのある大切なバットを野球殿堂博物館に寄贈することを決断した。

 しかもその貴重なバットは、自らの手によって届けられた。まだ乾いていない松ヤニのせいで少しベタついた真っ黒のバットは、白いハイソックスに包み込まれ、マンハッタンからクーパーズタウンまで車で慎重に運ばれた。

 寄贈品を選手自ら届けに来るのは非常に稀なことで、博物館にとっても忘れられない出来事だった。驚きはそれだけではなかった。イチローは博物館に対して、次のようにメッセージを送った。

「クーパーズタウンは将来、僕の所有する道具などをすべて引き取ってくれることを約束してくれた。4000本目のバットは僕にとって特別なものだが、個人が所有するよりも野球の聖地に置いていただけるのなら、そのほうが幸せであるのは明白」

3 / 4

キーワード

このページのトップに戻る