高木豊が現地視察で感じた日米のキャンプの違い スプリットを習得した前田健太も「メジャーのやり方がすごく合っている」 (3ページ目)

  • 浜田哲男●取材・文 text by Hamada Tetsuo

――現地ではタイガースの前田投手と会ったそうですが、そういった話もしましたか?

高木 試行錯誤を重ねて、自分にとって「これだ!」というものを掴んでいくためには、メジャーのやり方がすごく合っている、と話していましたね。マエケン(前田健太)は日本にいる時はスプリットがどうしてもうまく投げられなかったそうなのですが、メジャーで活躍するために、どうしても空振りを取れるスプリットを投げたかったと。

 そこでいろいろな握りを模索して実践するなかで、薬指を引っかけるようにして投げると落ちるようになったそうです。今ではマエケンに欠かせない武器であり、生命線になっていますよね。昨季のスプリットの被打率は1割台(.182)ですし、ストライク率も相当高いみたいですから(61%)。

何かがうまくいかなくても、諦めずにもがき続けることはすごく大切なんだなと、あらためて気づかされました。マエケンも「このボールを習得していなければ、今頃ここ(メジャー)にはいられなかったかもしれません」と言っていましたよ。

――先ほども話したような、自分で考え、課題克服に取り組む姿勢が成長には欠かせないということですね。

高木 そうですね。野球に限らず、世の中で成功した人間の考え方や生き方をコピーしたからといって、誰もが成功できるわけではない。マエケンが投げられるようになったスプリットの握り方も、単純に「こうボールを挟めば落ちる」という正解はないですから。自分に合ったものを追求し、何度もそれを試したからこそ習得できた。厳しいメジャーの世界で生き抜いていくためには、発想の転換や創意工夫がより必要なんだと思います。

 それと、選手がそういう話を惜しげもなく打ち明けてくれるのも印象的でした。ほかの選手にアドバイスする時も、「自分がこの握りで成功しているから、これをやってごらん」という言い方ではなく、「これが合わなかったら、こっちのやり方でやってごらん。それでもダメなら、こういうやり方もあるよ」ということが言えるんです。自分が試行錯誤しながらやっているから、引き出しも多いんでしょう。

 昨季のマエケンはトミー・ジョン手術明けの影響もあって調子の波がありましたが、シーズン終盤のピッチングはよかったです。今季の初登板は苦しかったですけど(3月31日、ホワイトソックス戦。3回1/3、6失点)、新天地の環境にも溶け込んでいるようですし、今後の活躍を期待しています。

【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。

■元プロ野球選手のYouTuberのパイオニア

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プロフィール

  • 浜田哲男

    浜田哲男 (はまだ・てつお)

    千葉県出身。専修大学を卒業後、広告業界でのマーケティングプランナー・ライター業を経て独立。『ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)』の取材をはじめ、複数のスポーツ・エンタメ系メディアで企画・編集・執筆に携わる。『Sportiva(スポルティーバ)』で「野球人生を変えた名将の言動」を連載中。『カレーの世界史』(SBビジュアル新書)など幅広いジャンルでの編集協力も多数。

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