三振を奪いまくるダルビッシュに全米中が熱狂するワケ
現在、メジャートップの奪三振率をマークしているテキサス・レンジャーズのダルビッシュ有 ダルビッシュ有投手(テキサス・レンジャーズ)の快進撃が止まりません。5月15日現在、8試合の先発で52イニング3分の2を投げて、80奪三振はア・リーグ1位。また、1試合平均13.67個の奪三振率はメジャートップの数字です。今、ダルビッシュ投手が三振を奪うたびに、全米中が熱狂しています。
なぜ、アメリカ人が三振を好むかというと、「パワー対パワー」の勝負がアメリカ野球の原点だからです。ピッチャーは「打てるものなら打ってみろ」という思いでストレートを投げ込み、バッターも渾身(こんしん)の力でフルスイング。その気持ちのぶつかり合いがあるからこそ、これまで数々の名勝負が生まれました。全力で投げるピッチャーに対し、バッターも真っ向勝負に応じる――。三振かホームランか、紙一重の勝負がファンを虜(とりこ)にさせるのです。
「誰にも負けない剛速球で勝負したい」と思うのは、ピッチャーの本能だと思います。だからこそ、ファンはその思いをリスペクトし、三振を奪うと盛大な拍手を送ります。バッターを2ストライクに追い込んだ際に三振をうながす手拍子で盛り上げるのも、ピッチャーが三振を奪うと三振数を示す「Kボード」を並べるのも、アメリカ人の三振に対する思い入れの強さの象徴です。
そもそも、「剛速球で勝負をしたい」というこだわりは、1900年代初頭に「ビッグ・トレイン(人間機関車)」の愛称で親しまれたウォルター・ジョンソンから始まっていると思います。ワシントン・セネターズ一筋で21年間投げ、歴代2位の417勝を挙げたジョンソンは、最初の15年間を自慢のストレートだけで勝負したと言われています。歴代9位の通算3508奪三振は、1983年にノーラン・ライアンが破るまで、実に56年間も不滅の大記録としてメジャートップの座に君臨していました。
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著者プロフィール
福島良一 (ふくしま・よしかず)
1956年生まれ。千葉県出身。高校2年で渡米して以来、毎年現地でメジャーリーグを観戦し、中央大学卒業後、フリーのスポーツライターに。これまで日刊スポーツ、共同通信社などへの執筆や、NHKのメジャーリーグ中継の解説などで活躍。主な著書に『大リーグ物語』(講談社)、『大リーグ雑学ノート』(ダイヤモンド社)など。■ツイッター(twitter.com/YoshFukushima)