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NPBドラフトを目指すはずがシアトル・マリナーズとマイナー契約――24歳・大山盛一郎が日米をまたいで挑んだ1年間 (3ページ目)

  • 山脇明子●取材・文 text by Yamawaki Akiko

【日本での2025年開幕戦直前に再渡米を決意】

 迎えた2025年シーズン。当初は10月23日に行なわれるNPBドラフトを目指し、燃えていた。

「自分のなかでは、今年の日本でのドラフトに懸けるぞっていうだけでした」

 1年前のオフシーズンに入った時の気持ちを言葉にした。

 それが、どこで、何が変わってマリナーズの2Aで2025シーズンを終えることになったのだろうか。

 大山は昨年のオフ、母校UCIのあるカリフォルニア州アーバイン市に戻った。オフシーズン中、練習施設を開放してくれる母校には、多くのOBや野球選手が集う。そこでマイナーリーグや米独立リーグで研鑽する元チームメイトらとともにトレーニングし、彼らの状況を聞いた。心が、少し動かされた。

 セントルイス・カージナルスのノーラン・アレナドとともに過ごす機会も得た。本塁打王3回、10年連続ゴールドグラブ賞など、現役のトップメジャーリーガーであるアレナド。彼はUCI出身ではないが、すぐそばの町で生まれ育ち、毎年オフシーズンはUCIで練習している。2023年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でアメリカのメンバーだったこともあり、同大会後、アレナドがUCIを訪れた際に同大のコーチが大山とつなげてくれ、お互いにSNSでフォローし合う仲となった。

 行動力のある大山は昨オフ、アメリカに戻る前、アレナドに「来週UCIに戻るけど、練習してる?」とメッセージを送った。オフといってもまだ時期が早かったため、返事は「まだしてない」だったが、その後再びアレナドからメッセージが入り、「打つか?」と聞かれた。そして、アレナドの自宅の打撃ケージで、元ジャイアンツのマイナー選手だった弟のジョナと3人で過ごした。

「ノーランはメジャーのなかでもトップ中のトップでやっている選手ですが、あんな一流の選手でも、もう死に物狂いでオフシーズンにやっている姿を目の当たりにしました。いろんな話も聞かせてもらって、アドバイスももらって、新たな発見もありました。自分もこんな風になりたいと思いましたし、子どもの時のようにワクワクしました」

 メジャーリーグのドラフト指名が決して遠い位置ではないなかで、目標に向かって野球に取り組んでいたUCI時代の感情がこみ上げてきた。

「もう1回一から見直しました。バッティングもそうですけど、守備もスローイングも一から全部見直して取り組みました。自分の中では、もうベストと思える状態でオフシーズンが終わりました」

 アメリカで大きな刺激を受け、メンタル面でもリフレッシュして、くふうハヤテに戻ってきた大山は、「キャンプも通して、守備もバッティングも今までで一番いい状態だと思った」と好感触を得ていた。

 すると、自分のなかに秘めていた"欲"が湧いてきた。

「野球人生は長くない。最後にアメリカでもう1回、一か八か賭けてみよう」

 もともと、今年のNPBドラフトで指名されなければ、野球人生は終わりにしようと思っていた。それだけに「こっち(アメリカ)に来ないと後悔すると思った」と当時の心境を語った。

 腹をくくったのは、くふうハヤテの開幕戦直前。開幕前日、池田球団社長に「ハヤテでお世話になって、ハヤテに来てからうまくなって自信ができました。もう1回アメリカにチャレンジしたい。これで駄目だったら後悔はないです」と気持ちを伝えると、「悔いなくやって来い」と背中を押してくれた。そして翌日の開幕戦の日にチームメイトに退団することを伝えると、「みんな、『頑張って来い』と言ってくれました」。

 両親にも驚かれたが、「もう自分で決めちゃったので(笑)」と日焼けした表情を緩ませた。

「いい意味でも悪い意味でも、あきらめが悪いと言うか......」

 苦笑いしながらも、最後になるかも知れない挑戦に胸を高鳴らせた。

つづく

著者プロフィール

  • 山脇明子

    山脇明子 (やまわき・あきこ)

    大阪府出身。ロサンゼルス在住。同志社女子大在学時に同志社大野球部マネージャーと関西学生野球連盟委員を兼任。卒業後はフリーアナウンサーとしてABCラジオ『甲子園ハイライト』メインキャスター、サッカーのレポーターなどを務める。渡米後は、フリーランスライターとしてNBA、メジャーリーグ、アメリカ学生スポーツを中心に取材。

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