【夏の甲子園2025】名門対決で異彩を放った4本の木製バット 花巻東と智辯和歌山のそれぞれの狙いと戦略とは? (3ページ目)
花巻東の5番を担う2年生スラッガーの赤間史弥 photo by Ohtomo Yoshiyukiこの記事に関連する写真を見る
【花巻東の2年生スラッガーコンビ】
とはいえ、試合は花巻東が4対1で智辯和歌山を破っている。決勝点となった犠飛を放つなど、1安打1打点をマークしたのは5番の赤間だった。
高校通算17本塁打を放つ、将来有望な右打者である。春のセンバツよりも木製バットを振りこなしている印象を受けたが、本人も手応えを感じているようだ。
「春のセンバツで石垣(元気)投手(健大高崎3年)と対戦して、手も足も出なくて。スイングを強くして、パワーアップしたところを見せたいと取り組んできました。木製バットは芯に当てないと飛ばないので、まずは芯に当てることを意識して、そのなかで強く、叩くイメージです。春よりも木製バットに慣れてきました」
4番の古城も高校通算13本塁打。父・茂幸は日本ハム、巨人でプレーした元プロ野球選手だ。古城もこの日、1安打1打点を記録。今夏の岩手大会では打率.524、1本塁打と大活躍を見せた。
古城もまた、木製バットを振るなかで自信を深めているという。
「春が終わってから、芯でとらえることと振り切ることにいっそうこだわって練習してきました。飛距離はもちろん、フライの高さが変わってきたと感じます。今までより、もうひと伸びする感覚があります」
バットの芯でとらえる能力は、驚異的と言っていい。古城は木製バットを練習から使っているにもかかわらず、これまで1本もバットを折ったことがないという。
古城と赤間、ふたりの有望2年生が木製バットで切磋琢磨する。日本野球の未来を考えると、希望はふくらむばかりだ。
その一方で、智辯和歌山のように特殊なバットを使うことで、救われる選手もいる。
「もし、極太バットがなければ、どうなっていたと思いますか?」。そう尋ねると、大谷も黒川も「試合に出ていなかったと思います」と口を揃えた。
2年生の黒川は、秋以降も極太バットを使っていく予定だという。一方、大学で野球を続ける予定の大谷に「今後も極太バットを使いますか?」と尋ねると、やや困惑した様子でこんな答えが返ってきた。
「ちょっと考え中です」
4本の木製バットが振り乱れた甲子園。そのひと振りひと振りに、彼らのプライドとたくましさが宿っていた。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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