【夏の甲子園2025】名門対決で異彩を放った4本の木製バット 花巻東と智辯和歌山のそれぞれの狙いと戦略とは?
両チーム合わせて4選手が木製バットを使う。近年の高校野球で、そんな試合を初めて見た。
8月8日、甲子園球場での花巻東(岩手)対智辯和歌山(和歌山)の1回戦。花巻東、智辯和歌山ともに2選手ずつ、木製バットを使用して出場したのだ。
ただし、用途は両チームで180度異なっていた。花巻東は4番・古城大翔(2年)、5番・赤間史弥(2年)が木製バットを携えて打席に入った。古城は身長180センチ、体重94キロ。赤間は身長180センチ、体重98キロ。ともに重量級のスラッガータイプである。
1300グラムの超重量バットを使う智辯和歌山の黒川梨大郎 photo by Matsuhashi Ryukiこの記事に関連する写真を見る
【木製バットを勧める理由】
2024年春に低反発バットが導入されて以降、花巻東の佐々木洋監督は「いい角度で上がっても、打球が落下してくる」という感覚に陥ったという。そこで、長打力がある打者には、木製バットの使用を勧めるようになった。
今春のセンバツでは前出の2選手に加え、捕手の高橋蓮太郎も木製バットを使用。高橋はその後に打撃不振に陥り、自ら「金属バットに戻します」と申し出たという。
一方、智辯和歌山で木製バットを使うのは、2番の大谷魁亜(3年)と9番の黒川梨大郎(2年)。大谷は身長175センチ、体重70キロ。黒川は身長172センチ、体重70キロと平凡な体格で、打線のつなぎ役である。
ただし、中谷仁監督の信頼は厚い。試合前の会見で、中谷監督はこんな期待を口にしている。
「2番の大谷がいつもどおりの仕事をしてくれたら、相手も難しくなるはずです。大谷と黒川、『極太バット』を持ったふたりが、本当のキーマンになる。守備も攻撃も、やってきたことを出してくれたらいいですね」
中谷監督が言う「極太バット」とは、今春のセンバツでも話題になった特殊なバットを指している。金属バットの最低重量が900グラムなのに対し、大谷のバットは1200グラム、黒川のバットに至っては1300グラムと超重量級。しかもグリップから先端にかけて、全体的に太い形状をしている。もとはトレーニングバットだったものを公式戦で使えるように、規格を合わせて製作した。
中谷監督が楽天でプレーしていた現役時代、野村克也監督から極太バットを使ってみるように指示されたという。バットの重みを利用することで、非力な打者でも安定して単打を打てる効果がある。
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著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。




























