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【選抜高校野球】東洋大姫路・岡田龍生監督 「最近強くなりましたね」の若い記者からの声がけに複雑な胸中 (3ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigai Shiro

【牛島和彦擁する浪商に惜敗】

 休養日のない時代、翌日には秋の近畿大会で敗れている浪商と再戦するも、3対5で敗れた。7回に東洋大姫路が追いつき3対3としたが、直後の8回に浪商が香川伸行のヒット、牛島和彦のセーフティーバントでつくったチャンスからタイムリーが生まれ、勝負あり。

「牛島の球がとにかく速かった。秋よりさらに速くなっていて......。球速は、当時ですから130キロ台後半とかだったと思いますが、キレがすばらしくて、かなり速く感じました。僕も高校、大学、社会人でプロに行く投手ともいろいろ対戦しましたけど、一番速さを感じたのが、あの選抜の牛島でした。ほぼ真っすぐとカーブで、のちに決め球となるフォークも何球かありましたが、打てませんでした」

 前日の川之江戦で221球を投げながら、この試合も6安打完投。一方で、秋の大会では不在だった香川に一発を見舞われた。

「バッティングはもちろんすごかったですけど、守りもね。大阪の友だちに電話をして、香川について聞いたんです。最初はあの体なので、『そんなに動けるわけないやろ』って思っていたら、『ちゃうちゃう、香川はめちゃ動けるぞ』って。実際、捕ってからも早いし、キャッチャーとして優秀でした。あのふたりは"即プロ"というだけの実力はありました」

 長い春が終わった。さすがにここまでくれば、"頂点"も意識したのではないか。あらためて聞いてみたが、答えは変わらなかった。

「最後までなかったですね。本当に選手のレベルが違っていたので。それよりも終わった瞬間に思ったのは、『はぁ、明日からまた練習か......』って(笑)」

 さて、46年前の思い出をたっぷりと振り返った東洋大姫路の元主将が、母校を率いて立つ初の甲子園。3月20日の第3試合、壱岐(長崎)と対戦する。

「秋に勝っていくなかで、若い記者の方から『最近強くなりましたね』みたいな感じで何度か言われたんです。『いや、僕らの時代も強かったんやけどなぁ』と思いながら......今の人にとっては、弱いチームが強くなってきた感覚なんでしょうね。だから、みんなの頭のなかに東洋大姫路は常に大会で上位に進出するチームだと認識されるようにならないとアカンな、と。そのためにも、この選抜は大事になります」

「だから今回も『1日でも長く』ですね」

 あの春と状況は違うが、負けられない戦いに変わりはない。

著者プロフィール

  • 谷上史朗

    谷上史朗 (たにがみ・しろう)

    1969年生まれ、大阪府出身。高校時代を長崎で過ごした元球児。イベント会社勤務を経て30歳でライターに。『野球太郎』『ホームラン』(以上、廣済堂出版)などに寄稿。著書に『マー君と7つの白球物語』(ぱる出版)、『一徹 智辯和歌山 高嶋仁甲子園最多勝監督の葛藤と決断』(インプレス)。共著に『異能の球人』(日刊スポーツ出版社)ほか多数。

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