夏の甲子園で見つけた逸材! 西日本短大付のスピードスター・奥駿仁はプロ顔負けの快足で敵を翻弄する「理想の1番打者」 (2ページ目)
「ひと言で言うと、いやらしいバッター。足が速いだけじゃない。最後の打席見ましたか? エバース(バントの構えからバットを引いて投球を見る動作)やったり、スイングしたり、またエバースをやったり......。いろんなことをして相手ピッチャーを揺さぶって、四球をもぎとって、初球に盗塁でしょ。あんないやらしいバッターはなかなかいないですよ」
西日本短大付OBで、現役時代は自身も俊足、好守、好打の遊撃手だった弓削博輝副部長が頼もしそうに笑っている。
【辛口コーチも認めた超美守】
守っては、8回表二死一塁から金足農の1番・高橋佳佑のジャストミートした打球が、ライナーで左中間に伸びる。「カーン!」と打球音が響いた瞬間、奥はサッとスタートを切ると、打球に向かって一直線に向かっていく。
渾身の追走が美しい。懸命の全力疾走なのに、頭がまったく動かない。真っすぐに追って、目線がブレないから、当たり前のようにグラブに収めてしまった。
「あれはスーパープレーでしょう。超のつくファインプレーだと思いますね」
普段は辛口の弓削副部長(コーチ)も認めた、見事なスーパーキャッチ。
「顔を見てもらえばわかると思いますが、『オレが一番でしょ』って思っていますよ。セーフティだって、警戒されている時ほど『決めてやりますよ』って、そういうヤツです。1番打者としては、理想的な性格をしていると思いますよ」
本人の自己申告では50m5秒8。
「もう、とんでもなく足の速いヤツです。ウチも足の速い選手は、歴代かなりいましたけど、あんな速いヤツは初めてですよ」
西日本短大付の指導者となっておよそ20年の西村慎太郎監督も、半ばあきれるほどのスピードスター。そういえば西日本短大付は日本ハムの新庄剛監督の母校としても知られ、西村監督は同期である。
「奥選手と現役時代の新庄さん、どっちが速いですか?」と聞くと、西村監督は「うーん......」と、答えが返ってくるまでに10秒ほどを要した。
「新庄は長い足を生かした大きなストライドで走って、奥は足の回転が速いピッチ走法でしょ。タイプが違いますけどねぇ......うーん」
次戦は大会8日目の第4試合、相手は菰野高校(三重)。今日は見られなかったジャストミートしたライナー軌道の長打も見てみたい。ホームランは「野球の華」と言われるが、一方でスピードと躍動感に溢れたスリリングな走塁も、間違いなく野球の醍醐味である。
著者プロフィール
安倍昌彦 (あべ・まさひこ)
1955年、宮城県生まれ。早稲田大学高等学院野球部から、早稲田大学でも野球部に所属。雑誌『野球小僧』で「流しのブルペンキャッチャー」としてドラフト候補投手のボールを受ける活動を始める。著書に『スカウト』(日刊スポーツ出版社)『流しのブルペンキャッチャーの旅』(白夜書房)『若者が育つということ 監督と大学野球』(日刊スポーツ出版社)など。
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