甲子園「完全試合男」松本稔が高校時代から感じていたスパルタ指導の限界「もっと面白く、効率よく」を指導者として実践 (2ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【感じていたスパルタ指導の限界】

 間もなくして迎えた、夏の県大会。数カ月前まで期待感ゼロだったチームがスタンドからの大声援にあと押しされ、松本はこれまでと変わらずひとりで投げ続けた。そして、最後は決勝進出を目前に、ベスト4で散った。

「プロ野球でも高校野球でも神社へ行ってよく必勝祈願をするでしょう。頼れるのは自分の腕しかないって誰もがわかっているのになんでだろうと、つい冷めた目で見てしまう。指導についても根拠のないところに帰属させるような風潮って、スポーツ界にまだまだあるのが不思議です」

 松本が高校生だった時、薄々感じていたことがある。それは「スパルタ指導の限界」だった。長時間練習が当たり前で、根性や忍耐といった精神論で選手を鍛える指導者も多かった当時の高校野球。野球界はこれでいいのかと、少なからずの疑問を抱いていた。

「自分の性格が影響していると思うんですが、もっと面白く、効率よく練習したいという気持ちがいつも心の内にありました。高校野球は教育という側面が強調されやすいけど、それが前面に出てしまうと窮屈になる。

 あとになって思ったのは、もっとスポーツとして高いレベルで野球をとらえるべきではないかということ。筑波大に進学した当時は、まだ科学的に野球を分析できるほどの環境にはなっていませんでしたが、進んだ大学院ではスポーツ心理学やバイオメカニクスによる研究も進み、ここで多くを学びました。のちの指導のエビデンスになっています」

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