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センバツでも熾烈な情報戦 阿南光の好投手・吉岡暖×豊川の強打者・モイセエフが繰り広げた駆け引き (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 だが、モイセエフもやられっぱなしではなかった。8回の第4打席、2ストライクと追い込まれたが、吉岡の高めに抜けたフォークを豪快に一閃。ライトポール際に2ラン本塁打を叩き込んだ。

 この一打に関しては、狙い球を何も考えなかったとモイセエフは明かす。

「2ストライクに追い込まれていましたし、全部の球に対応して『うしろにつなごう』と考えていました。どんなボールを打ったのかも覚えていません」

 高校通算16号となる一発を叩き込み、モイセエフは爪痕を残した。

 モイセエフの本塁打で一時は2点差まで迫った豊川だが、9回表に6失点を喫したのは痛かった。最終回に疲れの見える吉岡を攻めて1点を返し、なおもモイセエフに打席を回したが空振り三振で試合終了。最後の決め球もフォークだった。

「フォークは、序盤はよかったんですけど、後半はばらつきが出たのでそこは課題ですね」

 吉岡はそう言って苦笑を浮かべた。

 事前に対戦相手の映像を見て、どう感じるか、どう生かすかは人それぞれ。その感性と感性がぶつかり合い、名勝負を演出する。

 そして、今回のセンバツの映像を見て、虎視眈々と下剋上を狙うチームも全国に無数に存在することを忘れてはならない。情報戦を制したその先に、栄光が待っている。

著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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