慶應のエンジョイ・ベースボールは「言葉が独り歩きしている」 甲子園ベスト8の名主将は野球教室でどう説明しているのか (2ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【思い出深い大田泰示からの決勝ホームラン】

ーー「エンジョイ・ベースボール」について、今も尋ねられることが多いそうですね。

 ENEOSで地方へ行き野球教室を開く機会があるんですが、そこではけっこう聞かれましたね。その時、正しい理解というよりは、言葉が独り歩きしている感はありました。

ーーどんなふうに説明しているんですか?

 ひと言では難しいんですが、多くは「ただ楽しいだけじゃないんです」で始まって、どういう意識で野球をやるのか、そこにどれほどの思い入れがあるのか、そういった考え方を大切にしながら野球をやる。笑顔でわいわい楽しそうに野球をやることではなく、厳しいことを乗り越えるために主体的に取り組み、自分でどうしたらいいかを考えて、その結果勝ちを手にできればめちゃくちゃ楽しいよね、ということ、というふうに説明します。

エンジョイ・ベースボールが野球人生において大きな指針になっているという 撮影/村上庄吾エンジョイ・ベースボールが野球人生において大きな指針になっているという 撮影/村上庄吾ーー自ら考えて挑む野球、というのがポイントになりそうですね。

 上からの押しつけでなく自分で考えてやるということは、自分で責任を負えるかどうかになります。後悔しない一番の方法でもある。だから僕自身も「エンジョイ・ベースボールをやろう!」なんて思ったことはありませんし、チーム全員が自発的に動いてベストを尽くした先に「エンジョイ・ベースボール」があるのだと思っていました。

ーー自発的に動く中身は、それぞれの考え方でいいということですよね。

 入部した時にみんな、自分にとっての「エンジョイ・ベースボール」って何だろうってきっと考えるはずなんです。今の自分に何ができるのかを考えながら、俺にとってはこうかなと思ったことを自分のなかに落とし込み、実践する。

「仲間への気配りを忘れず、大切にする」ということも前田さんが強く言われたことなので、チームのためにそれぞれが自分の持ち場でがんばって、大会前はメンバー外になった選手もビデオ係など多岐にわたって動きますし、勉強面ではヤバい選手に誰かが教える係になるというのもあって(笑)。そうやって動ける人間が多いと絶対にいい組織ができます。それは強く実感していることです。

東海大相模に勝利し甲子園出場を決めて喜ぶ山﨑(左)と慶應の選手たち 撮影/浅田哲生東海大相模に勝利し甲子園出場を決めて喜ぶ山﨑(左)と慶應の選手たち 撮影/浅田哲生ーー慶應高では全体練習は短く、自主練に重きをおいています。

 僕の時は15時半くらいから練習が始まり、18時過ぎくらいには終わっていたと思います。まず、ノックがなかったんです。基本的にアップは各自で、そのあと投内連係をちょっとやったあとバッティング練習になり、その時に守備練習も兼ねる、みたいな。それで、はい、おしまいとなって、そのあとは自主練習です。トレーニングだけはグループ分けしてみんなでやりますが、それ以外はそれぞれが自由にやっていいんです。僕はいつも、自分でどんなことをしようかなと学生コーチと話しながら練習していました。

 高校3年夏の県(北神奈川)大会決勝で東海大相模の大田泰示(現・横浜DeNA)から決勝ホームランを打ちましたが、あの一球はインコースのストレートで、自主練ではそこを打つ練習ばかりしていたんです。僕はパワーのある選手ではなかったのでこういう角度で打てばホームランになるかなと、こだわってやっていたことが大一番で活かせてうれしかったですね。

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