慶應のエンジョイ・ベースボールは「言葉が独り歩きしている」 甲子園ベスト8の名主将は野球教室でどう説明しているのか (4ページ目)

  • 藤井利香●取材・文 text by Fujii Rika

【キャプテンシーとコミュニケーション】

ーーところで山﨑さんは抜群のキャプテンシーを発揮してきました。上田監督が慶應高のキャプテンとして印象に残る選手として、山﨑さんと東芝の佐藤旭さんを挙げています。

 旭は僕が3年の時の1年生で、大学でも一緒。社会人ではライバルチームですがずっと連絡をとり合い、切磋琢磨してきた間柄でした。自分がリーダーの器なのかは何とも言えませんが、中学生の時からずっとキャプテンをやらせていただいて、高校の時に求めたのは「一体感」です。

 横目で「あいつどうなんだろう」で終わらせず、仲間をちゃんと理解して、みんなが同じ方向を向いて野球をする。そういう一体感のあるチームにしたい、と。それを部長、監督、コーチ陣も賛同してくれて、高校の時はそれができたと思います。

 でも、キャプテンがチームに影響を与えられる範囲ってやっぱりあると思っていて、大学の時はうまくいかず悩むことも多かったです。その反省から、社会人では一番キャプテンをやってみたいと思いましたね。この時、自分なりに心がけたのがコミュニケーション。それがとれていないのにあれこれ言っても相手に響かないと思うので、言い方と、言葉をかけるタイミングを考えて話をするようにしました。それがとてもうまいのが大久保監督です。

中学・高校・大学・社会人でキャプテンを務めてきた山﨑 撮影/浅田哲生中学・高校・大学・社会人でキャプテンを務めてきた山﨑 撮影/浅田哲生ーーこれまでの野球を通した経験は、この先大いに生かされそうですね。

「エンジョイ・ベースボール」が自分の物事の考え方の根底にある、というのは間違いないと思います。上田さん、大久保監督との出会いに感謝です。あとはぜひ、多くの人に社会人野球を見てほしいですね。

 日頃はにこやかでも、ENEOSで一番の負けず嫌いなのは大久保監督なんです。試合前のダグアウトでは本当に集中していて勝負師の顔。カメラが入らないので多くの人は知りませんが、ここ一番にかける思いが伝わってきて、見たら誰もが驚くと思う。そんな裏側を想像しながら、一発勝負の試合を楽しんでもらえたらうれしいです。

ENEOSでは2度の都市対抗優勝を経験、ベストナインにも選出された 撮影/浅田哲生ENEOSでは2度の都市対抗優勝を経験、ベストナインにも選出された 撮影/浅田哲生

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【プロフィール】
山﨑 錬 やまさき・れん 
1990年、東京都生まれ。右投左打。大阪ドラゴンズで少年野球を始め、世田谷ボーイズを経て、慶應高へ。2年時よりレギュラーとなり、3年の2008年、二塁手として春・夏連続で甲子園出場。センバツは初戦敗退も、5打数4安打。夏は16打数7安打でチームはベスト8入り。慶應大時代は4年間で春の優勝2回を経験。ENEOS入社1年目と10年目に都市対抗野球で優勝。2022年はベストナインに選出される。中学、高校、大学、社会人で主将を務めた。

プロフィール

  • 藤井利香

    藤井利香 (ふじい・りか)

    フリーライター。東京都出身。ラグビー専門誌の編集部を経て、独立。高校野球、プロ野球、バレーボールなどスポーツ関連の取材をする一方で、芸能人から一般人までさまざまな分野で生きる人々を多数取材。著書に指導者にスポットを当てた『監督と甲子園』シリーズ、『幻のバイブル』『小山台野球班の記録』(いずれも日刊スポーツ出版社)など。帝京高野球部名誉監督の前田三夫氏の著書『鬼軍曹の歩いた道』(ごま書房新書)では、編集・構成を担当している。

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