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リアル「下剋上球児」イチの問題児が振り返る「とんでもない人」だった高校生活 卒業後ついに恩師と主将に感謝を伝えた (4ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

「切符の買い方がわからないんです。この前、仕事で東京に行ったんですけど、改札に切符を2枚通したりするじゃないですか。あれが意味わからなくて。この前は会社の人が一緒だったのでなんとかなりましたけど、ひとりじゃ無理です」

 最後に伊藤らしい奇想天外で愛嬌あふれるエピソードが聞けて、不思議な安堵感があった。

 たとえ電車に乗れなくても、自立して家族と幸せに暮らす価値を思えば些細なことだ。伊藤は「たぶんつかまってた」という人生を立て直し、立派に下剋上を果たしている。

 取材を終えようとすると、伊藤は「ちょっといいですか?」と初めて自分から切り出してきた。

「2年の冬はいつもキャプテンの辻(宏樹)が一緒に練習してくれたんです。辻を見て『ちょっとやらなアカンな』と思って、頑張れました。ほかのメンバーだったら、絶対頑張れなかったですから。だから彼にも感謝してます」

 辻本人には照れくさくて、直接伝えられていないという。私はその「伝言」を受けとり、そのまま車で南へと向かった。そこには「日本一の下剋上」というフレーズの生みの親である、辻宏樹が待っていた。

(つづく)

  『下剋上球児〜三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』

菊地高弘著(発行/カンゼン)
【発行】カンゼン
【定価】本体1500円+税

2018年夏の甲子園で注目を集めたのは、初出場の三重県立白山高校だった。
白山高校は、いわゆる野球エリート校とは対照的なチーム。
10年連続県大会初戦敗退の弱小校。
「リアル・ルーキーズ」のキャッチフレーズ......。
そんな白山高校がなぜ甲子園に出場できたのか。
そこにはいくつものミラクルと信じられない物語が存在した。
「菊地選手」渾身の一作。
学校も野球も地元も熱狂! ひと夏の青春ノンフィクション

【目次】
第1章 雑草だらけのグラウンド
第2章 牛歩のごとく進まぬチーム
第3章 10年連続三重大会初戦敗退
第4章 真面目軍団と問題児軍団
第5章 一筋の光明と強豪の壁
第6章 8名の野球部顧問
第7章 過疎の町と野球部
第8章 三度目の正直
第9章 監督の手を離れるとき
第10章 日本一の下剋上
第11章 空に昇っていく大歓声
第12章 白山はなぜ甲子園に出られたのか

著者プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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