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リアル「下剋上球児」イチの問題児が振り返る「とんでもない人」だった高校生活 卒業後ついに恩師と主将に感謝を伝えた (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

「全員が僕のことを見放さずに止めてくれたので、みんなに感謝しています。この前、東先生の飲み会があって、初めて先生に感謝を伝えられたんです。今まで東先生みたいに向かってくる人なんていなかったので。高校の時はそのことに気づかなかったんですけど、今になってみるとすごい先生だったなって。まだ全然恩返しが足りてないです」

 後日、別のチームメイトから飲み会の写真を見せてもらった。東監督と肩を組む伊藤は、今まで見たことのない晴れやかな笑顔を見せていた。東監督にこの件について聞くと、「初めて尚にお礼を言われて、うれしかったですね。これが本当の監督としての喜びです」としみじみと語った。

 なお、伊藤が大学を中退した理由について尋ねると、本人から「ポルトガル語がわからなくて......」という予想外の答えが返ってきた。

「地域国際なんとか......って学部の名前も忘れたんですけど、授業がポルトガル語と韓国語でまったくわからなくて、イヤになってしまって......」

 大学を中退したあとに今の職につき、結婚して子どもが産まれた。すると、伊藤は今までにない自分を発見したという。

「僕は子どもがめちゃくちゃ苦手で、自分に子どもができた時も不安だったんです。でも、産まれてきた息子を見たらめちゃくちゃかわいくて......。大変なこともありますけど、家族がいるから頑張れます」

 もはや問題児・伊藤尚の面影はない。目の前には父性に目覚めた23歳の好青年が座っていた。

【キャプテンがいたから頑張れた】

 伊藤は今も忙しい合間をぬって母校・白山高校の応援に行くという。そういえば、伊藤は自宅のある亀山から白山高校まで電車を乗り継ぎ、約2時間かけて通学していた。2時間に1本しか列車が来ないローカル線・名松線に、今も乗ることはあるのか?

 感傷に浸りながら質問すると、伊藤からまたも予想外の返答があった。

「僕、電車乗れないので......」

 意味がわからず問い直すと、伊藤は苦笑交じりにこう答えた。

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