「坂本勇人さんにはなれませんし、自分を磨くしかない」八戸光星学院・中澤恒貴がフルスイングに込める思い (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 8月12日の甲子園初戦(ノースアジア大明桜戦)では、爽快な振り抜きで左中間を破る二塁打を放っている。本人によると、「少し詰まった」という。

「詰まってもあれだけ飛んだので、ウエイトトレーニングのおかげかなと思いました。練習試合でも打ち損じの打球が長打やホームランになって、よくなってきたと感じます」

 4月にはU−18日本代表候補に選ばれ、強化合宿に参加している。木製バットを使っての打撃練習では打ち損じの打球も目立ったものの、ツボにはまった際の飛距離は目を見張った。八戸学院光星はふだんの練習では重い金属バットを使っており、木製バットはあまり使い慣れていない。それでも、中澤は「バッティングが売りのつもりで合宿に行ったんですけど、あのなかでは通用する自信がつきました」と手応えを得た。

 肉体改造の成果を実感する中澤に、「最終的にはどんな肉体になりたいですか?」と聞くと、少し首をかしげて考えてからこう答えた。

「もうちょい身長を伸ばしたいですね。今は178センチなんですけど、180はいきたいなと。でも、たぶん無理っすね」

 東京を15歳で出て、八戸で己を磨いて3年目。冬場に暴力的な海風が吹き荒れ、「寒くて、痛くて、ボールを打つのもイヤ」という時期もあった。それでも、「強制的に慣らしました」と強靭な精神力で順応した。すべての経験が中澤の養分になり、味になっている。

 八戸学院光星の次戦は文星芸大付との3回戦になる。

 オレは「坂本2世」ではなく、「中澤恒貴」だ。中澤のフルスイングには、そんな魂の叫びがこもっているように感じられてならない。

プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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