仙台育英が悲願の甲子園初制覇。流れを引き寄せた「積極采配」と記録に表れない「攻撃的守備」 (3ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 その決断は吉と出たかに見えた。仲井の打球は一塁線に飛んだからだ。ところが、そこにはファーストの岩崎がいた。甲子園では四死球とエラー、長打が試合の流れを大きく左右する。ゴロの打球が塁線を抜けて長打になるのを防ぐために、仙台育英はファースト、サードがライン際に詰めて守っていた。ほとんどのチームが相手なら長打になっていたはずの打球が、ただのファーストゴロになった。

 この回は二死から5番・水安勇が打った打球もライト線へのフライ。定位置に守っていればポテンヒットになる可能性もある打球だったが、これもあらかじめライン際に守っていた齋藤陽が難なく捕球した。坂原監督の仕掛けを仙台育英はポジショニングで阻止。目に見えないファインプレーだった。

明暗分けた記録に表れない守備

 ポジショニングでいえば、下関国際には悔やまれる場面が2度あった。ひとつめは齋藤陽に先制打を浴びた4回裏一死三塁。内野手は前進守備を敷いたが、その守備位置が浅すぎた。強い当たりではあったが、もう少し後ろに守っていれば止められる打球だった。

 もうひとつは7回裏一死一、三塁。打者が3番の森蔵人という場面で内野手はベースとベースを結ぶライン上よりやや前に守った。ライン上より前に守ると、二遊間の二塁ベースカバーが難しくなる。自分よりも後方にあるベースに入らなければいけないからだ。前や横ではなく、下がりながら捕球してタッチをするのはかなりの技術を必要とする。

 この場面で一塁走者の山田は2球目に走ってきたが、ショートの松本竜之介の二塁ベースに入るタイミングがやや遅れた。その証拠に捕手の橋爪成はすぐに送球せず、ワンステップしてから投げている。

 その結果、アウトと言ってもいいタイミングだったが、入り遅れたために余裕を持ったタッチができずセーフにしてしまった。オンラインより前ではなく、せめてオンライン上に守っていれば......。自分より後方ではなく横への移動なら難易度も低く、早く二塁ベースに入って待つことができた。ここでひとつアウトがとれていれば、ビッグイニングは防げたはずだ。

"攻める守り"ができず、エンドランで流れをつかまれた下関国際。ポジショニングで相手の攻めを封じた仙台育英。勝敗を決めたのは、記録に表れない守備にもあった。

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