仙台育英が悲願の甲子園初制覇。流れを引き寄せた「積極采配」と記録に表れない「攻撃的守備」 (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 準決勝までの4試合で須江監督がエンドランを仕掛けたカウントは初球が4度、1ボール0ストライクが3度、1ボール1ストライクが2度だった。決勝でもエンドランを4度試みたが、初球が1度(8回裏無死一塁、二番打者・山田脩也の場面)、1ボール0ストライクが2度、1ボール1ストライクが1度。すべて準決勝までと同じカウントで動いている。にもかかわらず、下関国際は何もしなかった。これだけ傾向が出ているのだから、たとえ相手が動かなかったとしても、1度くらいはピッチドアウトを入れてほしかった。

 エンドランが決まり、4対1とリードしたことは須江監督の心に余裕をもたらした。橋本の三塁打のあと、四死球で無死満塁となったが、4番の齋藤陽が三振。残りイニングを考えれば、あと1点取れれば勝利の可能性が濃厚になる状況で、打席にはこの日3打数0安打の岩崎。準決勝までの4試合で5度もスクイズを試みているだけに、満塁とはいえこの場面でもスクイズが考えられた。カウントも2ボール0ストライクとなり、仕掛けやすいタイミング。状況が整ったように見えたが、ここで須江監督はタイムをとり、岩崎に伝令を送った。

「ここはスクイズじゃないよ。自分に自信を持って振り抜くところだ。監督は腹を決めているからね」

 監督が流れを止めてはいけない、邪魔してはいけないと、サインを出すことを我慢した。それが満塁本塁打という最高の結果を生み出した。

仙台育英の積極的守備

 一方の下関国際・坂原監督も攻撃ではいつもとの違いを見せた。準決勝までの4試合ですべての相手に160球以上投げさせたしぶとい攻めは決勝でも継続。仙台育英の先発・斎藤蓉に3回までに50球を投げさせていた。

 ところが、0対0で迎えた4回表。そのスタイルを解く。先頭打者の3番・仲井慎が初球を打ったのだ。準決勝までの36イニングでその回の先頭打者が初球を打ったのは1度しかない(大阪桐蔭戦の4回表、打者は4番の賀谷勇斗)。坂原監督が「(斎藤蓉は)コントロールが暴れるタイプじゃなかったので、今日に関しては比較的早い段階からバットを振らせていった」と言ったように、相手先発の出来を見ての仕掛けだった。

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