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大阪桐蔭が9回2死からの逆転劇。「何かをやってくれる男」がサイクル安打で奇跡を起こした (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki
  • photo by Okazawa Katsuro

 秋田戦の9回二死の場面で打席に入った澤村はこんな思いを抱いていた。

「最後のバッターだけにはならん。さすがに春夏連続はカッコ悪すぎるで!」

 センバツ準々決勝の松商学園戦で、澤村は最後のバッターとなっていた。そこから野球人生で初めてといった大スランプを経験したからこそ、ますます闘志に火がついた。

 フルカウントからの6球目、外角低めのシュートをとらえた打球はセンター横を抜ける三塁打となった。"絶体絶命"から首の皮一枚つなげた澤村が言う。

「本当の鳥肌もんは自分の三塁打じゃないです。そのあとのヤツらです」

 7番の白石はネクストバッターズサークルで「引退かぁ......車の免許、いつ取りに行こうかな」とぼんやり考えていたという。それが澤村の一打にとって我に返った。

「絶対に最後のバッターになりたくない!」

 カウント1−1からの3球目。「センターに打ち返そう」とだけ心がけていた白石が、外角のストレートをライト前に弾き返し1点差。ここで大阪桐蔭ベンチは、一塁ランナーの白石に代え、元谷の弟である2年生の信也を代走に送った。長澤に迷いはなかった。

「白石より足は速かったし、走塁技術も高かった。うちはあとがないわけですから、切れるカードは切ろうと」

 二死一塁、8番の足立も白石同様「自分には回ってこないだろう」と思っていた矢先での打席だった。足立は7回のスクイズのように小技もできるが、通算本塁打は「15本くらい」と長打もある選手だった。得意なコースは内角。ボールに逆らわず引っ張る打撃が持ち味だと自認していた。

 初球、その内角にストレートが来た。しかし、体はいつもと逆の方向に反応していた。

「ほんまは三遊間にガツーンって引っ張るんですけどね。あの時は右足を引いて、逆方向へおっつけたんです。いま考えてもあれは不思議でしたね。いつもはあんなことしないのに。なんか降りてきたのですかね?(笑)」

 足立の打球は一塁手の前でイレギュラーし、ライト前に転がった。代走した元谷信也は迷わず三塁に進み、二死ながら一、三塁とチャンスを広げた。

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