「本当に甲子園を目指すことが正しいことなのか」強豪校の監督たちが語る指導の変化 (4ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

 だが、コロナ禍では保護者の助けが必要になった。

「今は逆で、送り迎えをお願いしているくらい。もともとそういう考えはなかったけど、この状況で電車やバスにあまり乗せたくなかったので。お勤めの方も多いだろうから、平日の送迎は大変だったと思います。苦笑いする保護者もいたけど、みんな協力してくれましたよ」

 あくまで選手本人と向き合いたい指導者からすれば、保護者にはできるだけ遠くで見てほしいというのが本音だろう。選手起用にまで口を出し、チームが空中分解した例もよく聞く。

「僕の高校時代には、保護者が関わることはほとんどなかった。でも、今はリトルリーグやシニア、ボーイズの時代から、親子が二人三脚で頑張っているんですよ。荷物を運んだり、お弁当をつくったり、準備を手伝ったり。一緒に努力してきた保護者にとって、ものすごく思い入れが強いことがわかる」

 もちろんプレーをするのは選手だが、子どもだけの高校野球ではないのだ。藤田監督は、保護者の愛情をあらためて感じることになった。

「保護者からすれば、子どもがかわいい。家族の支えがあって、みんなが野球をできていることがよくわかりました。いろいろなことをお願いして、本当によかった」

【今が高校野球のあり方を変えるチャンス】

 2021年春のセンバツでベスト8まで進んだ仙台育英の須江航監督。1983年生まれの若い監督はコロナ禍で満足に練習できなかった半年間をこう振り返る。

「コロナ禍の影響で、高校野球の指導が10年は前に進んだと思っています。例えば、ミーティングはリモートでやればいい。そうすれば選手は早く家に帰って体を休めることができる。体のサイズを大きくするのには休養が必要なこと、練習では量よりも質が大事だということを、多くの人が気づいたはずです」

 しかし問題は、指導者が実践できるかどうかだ。

「指導者の頭の中はかなり整理されたはずなんですが、いくらでも練習ができる状況になったら、元に戻ってしまうかもしれない。野球の世界は時代遅れだと感じることもありますが、今がチャンスですよ」

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