「本当に甲子園を目指すことが正しいことなのか」強豪校の監督たちが語る指導の変化 (6ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

「生徒ひとりひとりと動画を見ながら、『そこ、こうしたら?』『ここはこのほうがいいんじゃない?』という感じで話をしました。メニューを渡して『やっとけよ』と投げるのは簡単ですが、それだけではもったいない。

 僕自身、いろいろな工夫をしながら指導をしてきたんですが、1を提示したら3が返ってくるような関係を生徒との間に作りたいと考えています」

 さらに、2016年夏に済美の監督に就任し、2017年、2018年に甲子園で6勝を挙げた中矢太監督は言う。

「2020年に一番感じたのは、甲子園の大きさです。甲子園を目指すということがどういうことなのかを考えさせられました。今回のコロナの件を通じて、自分の目線がより生徒に近づいたような気がします」

 春のセンバツが終われば春季大会、それに負けたら夏の甲子園予選に向かう。そんな当たり前のスケジュールがすべて吹き飛んだのだ。

「本当に、甲子園を目指すことが正しいことなのかとも思いました。これまでは『甲子園』の3文字が、魔法の言葉だったわけです。それがなくなった時に、指導者は何をすべきかと問われたように思います」

 そして、こう続けた。

「キャプテンの山田響は『甲子園がなくなってからのほうが野球は楽しかった』と言ったんです。もしかしたら、生徒は甲子園というプレッシャーを突きつけられながら、ずっと野球をしてきたのかもしれない。僕は甲子園がすべてだと思ってやってきましたが、すべてではないんじゃないかと思う自分も出てきました」

 コロナ禍で得たものをどのようにして未来につなげるのか? 高校野球の現場では、多くの指導者が難しい課題に挑んでいる。

■元永知宏 著
『甲子園はもういらない……それぞれの甲子園』(主婦の友社)
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