「本当に甲子園を目指すことが正しいことなのか」強豪校の監督たちが語る指導の変化 (5ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

 また、2019年夏の甲子園に29歳の若さで出場した國學院久我山の尾崎直輝監督も、得るものが多かったと言う。

「学校は休校、部活動は休止の期間が長かったので、基本的には選手任せにならざるを得ませんでした。(昨年の)夏は、甲子園の予選はなくても、西東京の独自大会が開かれることになったので、いつ全体練習が再開しても大丈夫なように、個人個人で取り組んでもらいました」

 トレーナーにYouTubeで練習方法に関する動画をあげてもらい、そのURLを送ると、選手たちは自分でセッティングして取り組んだものをGoogleフォームで送り返してくる。毎日、体重や体温などの体調確認も怠らなかった。

 難関大学への進学率が高い、中高一貫の進学校である國學院久我山には、もともと練習時間の制限がある。他の強豪校と比較すれば、学習の比重は大きい。

「学校から学習の課題も出ましたし、定期試験や大学受験の準備もしなければならない。野球部員だからということだけでなく、生徒として注意すべきこともたくさんありました。でも、生活サイクルは全員が同じではなくて、早朝から勉強したい者もいれば、トレーニングに充てたいと考える者もいる。だから、その選択を預けた感じになりました」

 朝に登校して授業を受け、放課後に野球の練習をして、帰宅後にまた勉強をする。休校中には、そんなサイクルとは少し違う生活を送った生徒もいただろう。

「もともと僕は、『やらされる練習にどんな意味があるんだろう』と考えていました。トレーナーがハッパをかけたり、チームメイトでまとまって練習したりする時にはモチベーションが上がるでしょう。その効果は認めますが、大事なのは自分じゃないですか。周りに人がいることで集中できなくなる人だっている。そのあたりは十人十色なので、やり方はたくさんあっていいと思っていました」

 コロナ禍以前は、限られた練習時間の中で60人以上の部員をひとりずつ指導することは難しかった。だが、休部期間には可能になった。

「生徒に『聞きたいことがあったら、LINEでも電話でもいいから連絡して』と伝えたら、どんどん連絡が入ってきました。『ちょっと聞いていいですか』というところから、ビデオ通話が始まりました」

 尾崎監督にとって、これまで経験のない楽しい時間になった。

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