令和版「スローカーブを、もう一球」。西武台・増田優真は遊び心で開花
この左腕はなぜ打たれないのだろうか――?
今秋、たまたま縁あって西武台(埼玉)の試合を3試合も見る機会があった。最初は「よく振れるチームだな」という印象だった。4番を打つ左の強打者・松木光を中心に、チーム全体で振り込んでいることが伝わってきた。浦和実、昌平らの実力校を立て続けに破ったのは、決してフロックではない。
しかし、今秋2試合目の観戦になった県大会準決勝・川口市立戦で、ある疑問が浮かんできた。「打線がいいのはわかる。でも、なんでこの軟投派のサウスポーは打たれないのだろう?」と。
チームを23年ぶりの関東大会へと導いた西武台のエース・増田優真 西武台のエースは増田優真という左投手である。身長172センチ、体重72キロの平凡な体格。まるで打撃投手のような力感のないフォーム。そして何より、1球見ただけで「プロとは無縁だろうな」と思うほどボールが遅いのだ。県営大宮球場のスピードガンでは、常時110キロ台後半という、上位校のエースとしてはありえないスピードである。
それなのに、増田はこのストレートとスローカーブを織り交ぜ、淡々と打者を打ち取っていく。県大会はほとんど打ち込まれることなく、チームを準優勝へと導いた。西武台にとって23年ぶり4度目の関東大会出場は、増田の貢献なくしては果たせなかっただろう。
関東大会初戦の相手は栃木県大会を制した青藍泰斗(せいらんたいと)。力のある打者が1番から並ぶ強打線だった。とくに3番を任される石川慧亮(けいすけ)はプロスカウトからも注目される、パンチ力のある右打者。中日の石川翔の弟でもある。試合前、あるスカウトは「増田くんも今日は県大会のようにはいかないと思いますよ」と見通しを語っていた。
しかし、この試合で増田という投手を象徴する出来事があった。6回裏、ランナーなしの場面で石川を打席に迎えると、増田は80キロ前後のとびきり遅い超スローカーブをふわりと投げ込んだのだ。それも、初球から2球続けて。
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