悲劇じゃなく希望。スーパー小学生投手は6年後に野手で甲子園に出た
その投手を初めて見た6年前、「こんなピッチャーがプロに行くのだろう」と鮮烈な印象を受けたことを今でもはっきりと思い出す。
投手の名前は岡戸克泰(おかど・かつひろ)という。といっても、ドラフト対象の高校生でも大学生でもない。まだ小学6年生の少年だった。
身長168センチ、体重60キロという小学生としては大きな体で、流れるような投球フォームから投げ込むサウスポーだった。指に掛かったストレートが角度よく低めに決まると、捕手のミットから強い捕球音がこだまする。これは小学6年生のボールではないと驚いたし、さらなる伸びしろも感じさせた。
スタメンは外れたが、9回に代打で試合に出場した聖光学院・岡戸克泰 本人に話を聞いて、もっと驚いた。てっきり有能な指導者に仕込まれたのかと思った投球フォームは、独学で手に入れたものだった。
「テレビでプロ野球を見て、自分の動きと違うところがないか考えながら作りました。参考にしているのは田中将大投手(当時・楽天/現・ヤンキース)です。足を上げてから止まるのではなく、サーッとリズムをつけて体重移動をする部分と、腕の振りも力を入れるのでなく、軽くピッと振っているように見えたので、その点も参考にしています」
語り口からしてすでに大人びていた。岡戸はNPB12球団ジュニアトーナメントの読売ジャイアンツジュニアに選出されていた。12球団ジュニアトーナメントとは、毎年年末に12球団が小学5、6年生を対象に選抜チームを結成し、その覇権を争う有望な小学生の登竜門である。岡戸と同じくジャイアンツジュニアに選ばれていた小室智希(現・聖光学院)は、岡戸の存在に大きなショックを受けたという。
「みんないい選手が集まっているんですけど、岡戸はピッチャーのなかで一人だけずば抜けていて、いい意味で浮いていました。小6の時点で、『絶対にプロでピッチャーをやるんだろうな』と思っていましたから」
岡戸を擁するジャイアンツジュニアは大会で優勝を飾る。だが、このときを境に岡戸の名前は表舞台から消えた。あの左腕はどうしているだろうかと気になることはあったが、いつか出てくるだろうと勝手に思い込んでいた。
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