東海大相模に屈するも、近江には「理性と野性の融合」の魅力があった

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 歴史的な名勝負になるのではないか......と試合前にふくらんだ期待が、試合中盤にはみるみるうちにしぼんでいった。

 近江(滋賀)対東海大相模(神奈川)という、優勝候補同士の対戦。初戦屈指の好カードを見るために、日曜日の甲子園球場には4万4000人の大観衆が詰めかけた。

 しかし結果は6対1と、やや一方的な展開で東海大相模の勝利。近江は守備が乱れ、6失策では流れを引き寄せることは難しかった。

巧みなリードでエース・林優樹を支えた近江の有馬諒巧みなリードでエース・林優樹を支えた近江の有馬諒 そしてひとりの観戦者として心から残念でならないのは、東海大相模がお家芸である「アグレッシブ・ベースボール」で底力を見せたのに対し、近江は本来の面白さを発揮することなく敗退してしまったことである。

 あくまで主観だが、近江の面白さは「理性と野性の融合」にある。その象徴が、高校生離れした思考力と観察眼を持つ捕手の有馬諒と、2年生ながら奔放なプレースタイルで観衆を沸かせる遊撃手の土田龍空(りゅうく)である。

 ふたりとも間違いなく全国トップクラスのポテンシャルを秘めた好選手である。そこへ魔球・チェンジアップを操るエース左腕の林優樹、シュアな打撃が光る住谷湧也とタレントが揃っている。激戦の神奈川を圧倒的な力で制した東海大相模とはいえ、近江とがっぷり四つに組めば壮絶な試合になる可能性が高かった。

 この日、有馬のリードは立ち上がりから冴えに冴えていた。林優樹の決め球であるチェンジアップを見せ球に使い、100キロに満たないスローカーブを効果的に使った。ポイントは右打者のヒザ元にカーブを使ったこと。東海大相模の鵜沼魁斗(うぬま・かいと)が「自分の体に向かってくる遅いボールは意外ととらえるのが難しい」と語ったように、打ち損じを誘った。

 捕手の要求通りに投げられる林がすばらしいことは言うまでもないが、引き出したのは有馬である。試合前、有馬に東海大相模打線の打撃フォームの印象を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「ほとんどのバッターが(ミート)ポイントが前で、呼び込んで打つのではなく前ではらうような打ち方をしています。誰が教えているのかはわかりませんが、チームとしてやっているんでしょうね。そういう打ち方なので、緩急を使うことが大事になってくると思います」

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