2019.07.29

監督から内心で嘆かれても完封。
関東一・谷のキレキレ直球には夢がある

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 今春、ある野球雑誌で「第二の吉田輝星を探せ!」という企画への協力を求められた。昨夏の甲子園で「金農フィーバー」を巻き起こした吉田輝星(金足農→日本ハム)は、高校3年の春から夏にかけてめきめきと評価を高め、ドラフト1位で指名されるほどの選手になった。

「そんな吉田に続く投手は誰か?」というオーダーだったわけだが、私が推薦したのは谷幸之助(関東一)だった。

東東京大会決勝で小山台を2安打完封した関東一の谷幸之助 谷はその時点で最速146キロを計測する速球派右腕だった。身長176センチ、体重82キロの数値は「本家」の176センチ81キロに近く、厚い太ももを含めシルエットも似ていた。さらに谷自身が「吉田さんの体重移動を参考にしている」と語っていたこともあり、期待を込めて推薦したのだった。

 だが、投手としての能力、完成度は吉田とはかけ離れていた。吉田が試合展開や相手打者に応じて力加減を調節できる器用さとクレバーさがあるのに対して、谷は「投げてみないとわからない」という不安定な投手だった。

 目の覚めるような勢いのあるストレートを投げ込んだと思ったら、次のボールは別人のような棒球……というシーンを何度も見た。昨秋の段階では格下のチームに苦戦する試合も目立ち、もうひと化け、ふた化けしないと夏の甲子園で谷を見ることはないだろうと思っていた。それでも、谷が1試合に数球見せる凄まじいキレのストレートには夢があった。本格開花すれば、すごい投手になる予感があった。

 すると今夏、関東一は東東京大会を圧倒的なスコアで勝ち上がり、甲子園へとコマを進めた。関東一は谷と土屋大和の二枚看板を擁し、6試合で失点はわずか4。とくに谷の投球成績は圧倒的で、3試合に登板して3完封。26イニングを投げて、被安打はわずか5という少なさで、ほとんど安打を許さなかった。

 この数字だけを見ると大化けしたかのように感じるが、実態は少し違った。甲子園行きを決めた試合後、関東一の米澤貴光監督は苦笑しながらこう言った。

「持ち味と紙一重なので(交代するか)悩んだんですけど、いけるところまでいこうと思いました」