初戦完敗も観客の心をつかんだ白山高校。次なる挑戦は奇跡から常勝へ (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 高校卒業後は大学で野球を続けるつもりだと言う。

 弱小チームを甲子園へと導いた東監督だが、この経験を「ひと夏の思い出」にするつもりは毛頭ない。愛工大名電戦を翌日に控えた10日の前日練習後、東監督はこう語っている。

「投手の岩田(剛知)がこの1週間ちょっとで体重が6キロも増えたんです。三重大会で3~4キロは減った分をリカバリーしたにしても、多いですよね。練習時間が2時間と限られていて、宿舎の食事もおいしいので『増えるよ』とは聞いていたんですけど。今後のために証拠に残しておこうと思って、朝と晩に計量しているんです。他校の調整方法なんかを聞くと『こんな方法もあったのか!』と驚くこともあって、もっとやれることはあったなと反省しています。初出場なので、ひとつひとつの経験を今後に生かしたいです」

 その言葉には、「次に甲子園に来るときには、もっと強くなって戻ってくる」という思いが込められているように感じた。その印象を伝えると、東監督は笑ってこう答えた。

「1回目に多少ラッキーもあって甲子園に出られても、2回目に本気で甲子園を目指すのはなかなか難しいじゃないですか。負ける前提で話すわけではないですけど、いろんなことを教えてもらったので、それは絶対に次に生かせられると思いますから」

 3年生部員は13人しかいないが、2年生は17人、1年生は25人もいる。3年生のほとんどが「第1志望校に落ちたから」という理由で白山に入学した。だが、2年生以下は「白山で野球をやりたい」と進んだ選手もいるのだ。近隣の中学チームを回り、「野球を一生懸命やりたい子、野球が大好きな子がいたらぜひ白山にお願いします」と頭を下げてきた東監督のまいた種が芽吹こうとしている。

 甲子園の試合後、東監督はこう決意を語っている。

「全国レベルのバッティングや守備を肌で感じさせてもらいました。次に甲子園に出るためにも、また1からここを目指してやっていきたいです」

 白山の奇跡は終わった。しかし、今度は「奇跡」とは言わせない新たな挑戦が始まろうとしている。

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