2018.08.13

初戦完敗も観客の心をつかんだ白山高校。
次なる挑戦は奇跡から常勝へ

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 白山(三重)対愛工大名電(西愛知)の試合は、甲子園球場のすべての照明灯が煌々と輝き、ナイトゲームに突入していた。8回表、一死一、二塁。白山の攻撃中に自然発生した手拍子は、一塁側アルプススタンドはおろかバックネット裏まで伝播して球場全体を包んだ。

愛工大名電に敗れはしたが、甲子園を大いに沸かした白山高校ナイン 1点を争うクロスゲームではない。この時点で0対8のワンサイドゲームである。試合開始直後から防戦一方だった白山が、ようやくつかんだ得点のチャンス。そのタイミングでの大応援は、甲子園球場に集まった野球ファンから白山への祝儀のようにも思えた。

 一塁側の白山ベンチにいた東拓司監督は、采配を振りながら感慨を覚えずにはいられなかった。

「ベンチにいても歓声は感じましたし、これだけ点差が離れても応援されるチームになったんだなと思うとうれしかったですね……」

 最終結果は0対10という大敗だった。もちろん、真っ先に称えられるべきは勝者の愛工大名電である。捕手の安井太規が試合前に「油断はまったくありません。どんな相手でも名電の野球をします」と語った言葉通り、最後まで集中力を切らさずに戦った。東監督も「甘い球は全部ヒットになる。相手が一枚も二枚も上手でした」と兜を脱いだ。

 だが、高校野球には無数の目的、目標を持ったチームがある。すべてのチームが全国制覇を目指しているわけではない。甲子園に出られるだけでも快挙というチームもある。白山はまさにそんなチームだった。

 東監督が初めて「甲子園」という言葉を選手の前で使ったのは、白山に異動した2013年の4月だった。

「ここのグラウンドから甲子園に行くぞ!」

 部員たちは笑っていた。「ここ」には、雑草が生い茂り、たった5人の野球部員しかいなかった。誰も現実感を持てなかったのも当然だった。

 それは今夏、甲子園に出場した代も同じだ。センターの市川京太郎に「いつ甲子園に行けると思った?」と聞くと、市川は素直に「(今夏の三重大会3回戦で)菰野に勝ってからです」と答えている。