2018.08.13

横浜の最速152キロ左腕・及川。
あえて2つの球種で勝負する理由

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 甲子園初戦の試合前。顔つきが大人びてきたような気がしたので尋ねると、本人は目を見開いて「そんなことないですよ?」と否定した。

 気のせいだろうか。夏の南神奈川大会決勝・鎌倉学園戦のマウンドに上がったときの顔は、あどけなさを残した「球児」から「野球選手」へと成熟しつつあるように見えた。ただし、マウンド上での鋭い眼光とはうってかわり、グラウンド外では強烈に自己主張することもない普通の高校2年生である。

最速152キロを誇る横浜の2年生左腕・及川雅貴 横浜高校のサウスポー・及川雅貴(およかわ・まさき)は、中学3年間を千葉県の匝瑳(そうさ)リトルシニアでプレーしている。私は『中学野球太郎』(廣済堂出版)という中学野球専門誌で「菊地選手」と名乗り、注目の中学生投手を紹介するため実際に真剣勝負するという企画を続けている。201611月、侍ジャパンU15代表のエース格だった及川とも対決させてもらった。

 匝瑳市の最寄り駅まで迎えにきてくれたのは、及川の母・直美さんだった。直美さんはしきりに「寮に入れるのが心配で……」と、息子の行く末を案じていた。その時点で横浜高校への進学は決定的だったからだ。

 グラウンドに着くと、及川本人が挨拶に来てくれた。ただ、白の練習用ユニフォームに身を包んだ34歳のおっさんの登場は、当時15歳の少年には戸惑いしか与えなかった。私は高校時代、西東京大会ベスト32という実に中途半端な戦績のチームの3番打者である。未来のスター候補に一矢報いてやろうと燃えていた。

 ノーワインドアップからゆったりと右足を上げて、体重移動で加速をつけてしなやかに左腕を振り下ろす。「ピチッ」と音が聞こえてきそうな弾きのいいリリースから投げ込まれるストレートは、当時最速139キロまで計測していた。

 正直に言えばその美しいフォームを見た時点で「無理だ」と思ったが、今さら引き返すことはできない。観念して打席に入り、その第1打席。及川が投じた真ん中付近のストレートを私が振り抜くと、「キィ~ン!」という快音とともに、ライナーでライト線へ飛んでいった。中継プレーがもたつく間に私は三塁まで到達。なんと三塁打になってしまった。