1回戦負けの常連から甲子園出場へ。白山高校は「数」で常識を覆す

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

――こんな漫画のようなチームが実在するのか!

 白山(三重)の甲子園初出場の報を聞いて、誰もがそんな感想を抱いたのではないだろうか。

 2007年から10年連続で三重大会初戦敗退という弱小の公立校。昨年に2勝を挙げて3回戦に進出したと思ったら、今夏は大番狂わせを演じて三重大会優勝。一部では「リアル・ルーキーズ」と話題になった。

『ルーキーズ』とは、森田まさのりが1998年から2003年にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載した野球漫画である。いわゆる「ヤンキー」がひとりの熱血教師との出会いをきっかけに野球に目覚め、甲子園を目指すストーリー。後にテレビドラマ化、映画化までされた。

甲子園見学で笑顔を見せる白山高校の選手たち甲子園見学で笑顔を見せる白山高校の選手たち 白山野球部には、雑草だらけの荒れ果てたグラウンド整備や部員集めから始めたという野球漫画なら「王道」と言いたくなるようなエピソードがある。高校野球ファンならずとも興味をかきたてることは当然で、甲子園行きを決めた直後から白山にはテレビ局からの取材が殺到したという。

 大会前の甲子園見学では女性の川本牧子部長が東拓司監督の勧めでバッターボックスに入ってバットスイングし、大会関係者から厳しく注意を受けたというニュースが報じられた。とはいえ、川本部長の弾けるような笑顔には、誰もが野球をはじめた頃に抱く喜びを思い出させる力があった。

 実際に白山高校に行ってみた。すんなりと松阪駅までたどり着き、白山高校の最寄り駅である家城(いえき)駅を目指して名松線に乗り込む。この赤字路線は2時間に1本しか運行していない。乗客10人ほどの2両編成の電車に揺られ、小高い山と田んぼが広がる景色を眺めていると、突然雨雲が空を覆い隠した。家城駅に着くと土砂降りの大雨。

だが、歩いて10分かけて白山学校にたどり着くまでに雨はあがり、雲間から太陽が顔をのぞかせていた。あまりに気まぐれな天候に驚いていると、自身も白山町出身である諸木康真コーチは「これが『白山天気』です」と教えてくれた。

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