日本人コーチは驚いた。「ドイツ流GK育成」の指導法は斬新だ (2ページ目)

  • 小澤一郎●取材・文 text by Ozawa Ichiro

 ドイツ国内で今注目されているスヴェン氏を頂点に同クラブのアカデミーGK部門にはしっかりとした指導メソッドとスカウティングの基準が設けられている。ドイツのブンデスリーガでは、Jリーグにも導入されたダブルパス社の『フットパス』を2007-08シーズンから取り入れているが、松本氏によるとフットパスのGK版もドイツでは導入されており、各クラブのGKの指導育成についての格付け評価がなされ、それに応じてクラブへの分配金が変動するという。

 カイザースラウテルンはフットパスGK版において満点の査定を受けるGK育成のお手本クラブであり、なかでもスカウティングについては松本氏も驚くほどのリソースを割いているクラブだという。

「地域にいるGKを隈なくチェックしています。そのため、週末になると5人程の人間がスカウティングに出て行きます。アカデミーのGKコーチも自チームのアウェーの試合日にはスカウティングに行きます。その情報を毎週アップデートしてシーズンを通してGKをチェックしていますので、下のカテゴリーに行けば行くほど獲得候補選手のリストがたくさん出てきます」

 なかでもGKコーチが週末のアウェーの試合に帯同することなく、新たなタレント(GK)のスカウティングに出ていくシステムは、松本氏がもっとも驚かされた育成システムだ。これを可能にしているのがGK練習において「GKコーチはボールを蹴らない」というルール。松本氏も含めて、多くの日本人のGKコーチは「コーチになってからキックが上達した」という実感を持っているが、今ドイツではスヴェン氏のような優秀なGKコーチほど練習でキックを蹴らなくなっている。

 なぜなら、GKコーチは良いキックを蹴ることよりも、選手のパフォーマンスチェック、改善点を指摘することが仕事だからだ。また、選手に蹴らせることで選手の足元の技術を引き上げる効果もある。ドイツ式のGK練習を経験した松本氏も、「GKコーチが一生懸命蹴ってしまうと、練習できちんと選手を見ることができません。また、選手のキックの質の向上のみならず、まだキックがうまくない選手が想定外のボールを蹴ることで、逆にプレーするGKの集中力を高めることもできますから、一石三鳥の効果を感じています」と話す。

 また、週末のスカウティングを効率的にするためのシステムもドイツでは整備されている。ドイツサッカー協会(DFB)のHP、公式アプリでは育成年代も含めてすべてのカテゴリーの全試合が一元管理されており、試合結果、スケジュール、会場といったスカウティングに必要不可欠な要素がシェアされている。松本氏自身、こうしたドイツのタレント発掘システムを目の当たりにして「練習、指導も大事ですが、スカウティング、発掘はそれと同じくらい、もしかするとそれ以上に大事かもしれません」と語る。

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る