【自転車】片山右京「F1、登山......。僕が見つけた、次なる夢」 (2ページ目)

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira五十嵐和博●写真 photo by Igarashi Kazuhiro

 むしろ、無謀、といったほうが妥当であるかもしれない。

「僕たちがツール・ド・フランスに出るということは、日本における自転車の需要を変えることでもある、みたいなね。なんだかよく分からない大言壮語のようにもなっちゃうけど(笑)、でも、言い出した以上はもう、すべてが自分の上に圧し掛かってるわけです。だから、今は自分の全精力を、その目的を果たすために動いている。寝てるときも、飯を食ってるときも、風呂に入ってるときも。その目的とは、〈夢〉っていう言葉なのか、あるいは〈責任〉という言葉なのか、どう表現すればいいのかは分からないけれど、でも、やらなきゃいけないことであるのは、間違いない」

 片山右京が自転車ロードレースのプロチーム、TeamUKYOを結成する方向で模索し始めたのは、2011年。チームが立ち上がり、国内プロツアーへの参戦を開始したのが、2012年。いわばこのチームは、今年でまだ3歳にしかならない、幼児も同然の集団だ。

 その集団が、果たして今から3年後に、世界最高峰のレースを走る水準に到達できているものなのか。

「人によっては、それを挑戦というかもしれないし、あるいは、ビジネスと割り切って見る人もいるかもしれない。でも、やるかやらないかでいうと、結論はひとつしかないんですよ。たとえば、クルマなんてのはF1でもパリダカ(パリ・ダカールラリー)でも、しょせんタイヤが四つにハンドルはひとつだ、アクセルを踏まないと前には進まないよ、というのと同じことで、自転車もペダルをこがないと倒れてしまう。自分のなかでは、ものすごくシンプルなことなんです」

 TeamUKYOは、活動を開始した2012年に国内プロツアーのチームランキングが4位。個人成績でも最高で5位を獲得した。初年度の成績としては、まずまず、といったところかもしれない。だが、年間総合優勝を果たしたチームと選手からは、ダブルスコア以上のポイント差をつけられていた。こんなレベルでは、とてもツール・ド・フランス参戦を射程距離に収めることができる実力とはいえない。

 だが、その集団が、2013年には圧倒的な獲得ポイント数の差をつけて、個人総合優勝と2位を獲得。チームランキングでも、ポイントを稼ぎまくって首位の座に就いてしまった。

 この急激なTeamUKYOの伸びしろには、なにか人を魅きつける〈勢い〉のようなものがある。

 過去にも、ツール・ド・フランス参戦を目標に掲げて活動をしていた日本のチームは存在した。

 現在でも、日本のプロチームや実業団には、欧州に活動の拠点を置いてツール・ド・フランス参戦を目指すチームがある。

 伝統と実績のあるこれら実力派チームと比べれば、TeamUKYOはいかにも若く、稚(おさな)いのは事実だ。

 しかし、若く稚いからこその、この〈勢い〉が、日本と欧州の間に立ち塞がる分厚い壁を、一点突破で一気に突き破ってしまいそうな、なにかそんな期待感を抱かせる。

 それはおそらく、自らの実力と行動力のみを頼りに渡仏してフォーミュラ・ルノー・フランス国内選手権参戦を果たし、やがてF1のシートを獲得してル・マン24時間レースやダカールラリー完走等々を果たすに至る、片山右京という人物の成し遂げてきた実績とオーバーラップするところがあるからなのかもしれない。

(次回に続く)

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