2バタの恐怖に陥った坂井聖人。
失意のどん底も東京五輪は諦めない
ジャパンオープン2019の200mバタフライ決勝。第6レーンの坂井聖人(セイコー)はゴールタッチしたあと、顔を上げ、すぐにうしろを振り返った。電光掲示板にタイムが表示される。
1分55秒78、3位。
その瞬間、コースロープに体を預け、宙を見上げた。
「脱力してしまって、もうコースロープを持ち上げる力もなかった......」
派遣記録に0秒23足りず、世界水泳選手権出場を逃した坂井聖人 日本代表復帰と7月に韓国で開催される世界水泳選手権の出場を最大のテーマにして今大会に挑んだが、派遣記録(1分55秒55)に0秒23及ばず、どちらの目標も達成することはできなかった。
プールから上がった坂井の顔は青ざめていた。なぜ0秒23及ばなかったのだろうか――。
坂井は、2016年のリオ五輪200mバタフライで銀メダルを獲得した。王者マイケル・フェルペス(アメリカ)との差は指の第一関節ほどで、わずか0.04秒差。壮絶なラストの競り合いは、いまも語り草になっているほどだ。
「あの時は自信に満ち溢れていました。しかも、メダルを狙いにいって獲れた。金メダルを獲れなかったのは悔しかったですが、まぐれではなかったので......すごく大きな価値のあるメダルでした」
五輪という大舞台でメダルを獲り、達成感を得た坂井は、その後"燃え尽きた症候群"に陥った。だが、気持ちは落ちていても、不思議なことにタイムは出ていた。
リオ五輪が終わったあとの2016年9月の日本学生選手権では1分54秒06の大会新記録で優勝し、2017年4月の日本選手権では1分53秒71で瀬戸大也(だいや/ANA)を破り、世界水泳出場権を勝ち取った。
当時はこのタイムですら納得できないほど自信があったと、坂井は言う。ただ気持ちが入っていないなか、なぜこんな調子がいいのか、不思議な気持ちも抱いていた。
事態が暗転したのは、2017年7月の世界水泳選手権だった。自信満々で挑んだレースは後半に失速して、1分55秒94で6位に終わった。
「なんで......って思いましたね」
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