日本競泳陣の好敵手。21歳の金メダリスト、チャド・ル・クロスの野望 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi

 南アフリカを拠点に練習をしていたル・クロスは、その後、脚のケガで平泳ぎができなくなったのを機に、08年からフェルプスと同じバタフライと個人メドレーに転向。09年世界選手権は200mバタフライと400m個人メドレーに出場した。11年世界選手権はバタフライ2種目に出場して200mで5位。そして、昨年のロンドン五輪では200mバタフライで金メダルを獲得した(100mバタフライでは銀メダル)。また、今年、五輪王者として出場した世界選手権では、バタフライ100mと200mで2冠を達成した。

「世界選手権でも優勝したバタフライは当然重要ですが、今僕がフォーカスしているのは400m個人メドレーです。その種目が一番タフだと思うし、そこで勝つことがスイマーにとっての一番の勲章だと思っているので、チャレンジしていきたいですね。そのためにはすべての泳法で一流になる必要がある。僕はバタフライを専門にしていますが、今後はフリースタイル(自由形)にも力を入れていきたいです。これが速くならないと話にならないですから」

 だが、バタフライや個人メドレーだけではなく、尊敬するフェルプスのように複数種目で金メダルを獲ることも大きな目標だ。フェルプスが五輪や世界選手権でそうだったように、ル・クロスもまた、「リレーを含めたすべてのレースに出たい」という野望を持つ。

「単種目をやるだけでもしんどいけど、複数種目となると本当にしんどいです。普段のトレーニングも大変になりますが、試合の時、これまでより1日で泳ぐ回数が2倍、3倍になるケースもある。ただ、それはスイマーとしてはみんながやりたいと思っていることですし、憧れるポジションだと思います」

 ル・クロスは、11月9日と10日のワールドカップ東京大会で、50m、100m、200mのバタフライ3種目と200m個人メドレー、400m個人メドレーに出場。200m個人メドレーで萩野公介に敗れて2位になった以外は、すべて優勝した。さらに13日からの北京大会では個人メドレーの100mと200m、バタフライ100m、200mに出場。このうちバタフライ100mと200m、個人メドレー200mで優勝し、個人メドレー100mで3位という結果を残している。

 長時間の移動や、朝から夜まで出場する試合日程。試合後のドーピング検査やメディア対応などで、まともに休める時間もないほどのハードスケジュールだが、それもすべて、「今後の世界大会で複数種目に出場するための準備としてやっている」とル・クロスは言う。

「個人メドレーはこれまでトップに君臨してきたフェルプス選手が引退し、ライアン・ロクテ選手(アメリカ)やラザロ・シェー選手(ハンガリー)も30歳前後になり、世代交代の時期になっていると思います。今、私も含めて瀬戸大也選手や、萩野公介選手がこの種目のトップスイマーです。だから彼らと肩を並べて競い合っていくのが、すごく楽しみですね。

 その先の目標となるのは世界記録ということになると思いますが、僕は個人的にはあまり高いゴールは設定しないようにしているので、まだまだそこに至るまでのスモールステップを踏まなくてはいけないと思っています。それを一個ずつ丁寧に乗り越えるために、しっかりと練習を積み重ねていくことを重要にしたいですね」

2 / 3

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る