【箱根駅伝 名ランナー列伝】駒野亮太(早稲田大) 「山の神」の記録に迫る快走で12年ぶりの往路優勝に貢献した2000年代後半の「早大クライマー」 (2ページ目)
【大逆転劇で往路優勝フィニッシュテープへ】
そして2008年の正月、1年間を「山」のために費やしてきた男が芦ノ湖を臙脂に染める。
トップと1分27秒差の6位でスタートを切った駒野は5kmを15分13秒で通過すると、ギアを上げていく。目指すは小田原中継所を12秒前に走り出した駒澤大の背中だった。
「トップ争いまでいけるかなと感じていました。本格的な上りが始まるまでは体力を温存して、安西君に追いついてからが本当の勝負だと自分に言い聞かせていましたね」
最初の5kmは駒大・安西秀幸のほうが3秒速かったが、本格的な上りに入り、両者の差が縮まっていく。そして駒野は8kmすぎに藤色のタスキに追いついた。11km付近で山梨学院大を抜いてトップに立つと、12km過ぎに安西を引き離していく。
「宮ノ下の富士屋ホテルを左に曲がるところが、一番傾斜がきついんです。そこで一度揺さぶってみようと思っていました。無理に上げるのではなく、これまでと同じペースでいきました。そしたら安西君が離れてくれたんです。その後は、何がなんでも勝ってやるという気持ちでした」
苦手な下り坂は、「故障しても構わない」と頭から突っ込んでいくように駆け下りると、芦ノ湖が見えてきた。そして栄光の瞬間を前に、駒野は右拳で胸の「W」を何度も叩き、右手の人差し指を高々と掲げた。力強いゴールシーンには4年間の思いが詰まっていた。
「強い早稲田が帰ってきたことをアピールしたかったんです。胸の『W』に注目してもらうのが一番いいのかなと思ってやりました。あれを見て泣いちゃったという人もいましたし、よく知っている人からは『やりすぎだ』とも言われました」
12年ぶりの往路Vは鮮やかな大逆転劇だったが、駒野のタイムも衝撃的だった。
「5km以降のタイムはチェックしていませんでした。渡辺監督から『今井と変わらない記録で走っているぞ』という声を聞いたんですけど、タイムが間違っているのでは? と思っていたぐらいです」
駒野の設定タイムは「1時間20分切り」だったが、山の神とわずか7秒差の1時間18分12秒で走破。区間2位の安西に1分26秒、区間10位の選手に3分29秒の大差をつける圧倒的な区間賞だった。
なお駒野が激走した3年後、名門・早稲田は18年ぶりの総合優勝に輝き、学生駅伝3冠を達成した。
●Profile
駒野亮太(こまの・りょうた)/1986年2月18日生まれ、東京都出身。早稲田実業高(東京)―早稲田大。トラックでは3000m障害の選手として活躍し、箱根駅伝では5区に3回出走。4年時は前年に順大・今井正人が樹立した区間記録に迫る記録で区間賞を獲得し、早稲田大としては12年ぶりの往路優勝のフィニッシュテープを切った。卒業後は早大職員として競走部のコーチを務めた。
【箱根駅伝成績】
2005年(1年)5区12位・1時間15分36秒
2007年(3年)5区8位・1時間21分55秒
2008年(4年)5区1位・1時間18分12秒
著者プロフィール
酒井政人 (さかい・まさと)
1977年生まれ、愛知県出身。東農大1年時に出雲駅伝5区、箱根駅伝10区出場。大学卒業後からフリーランスのスポーツライターとして活動。現在は様々なメディアに執筆している。著書に『箱根駅伝は誰のものか』『ナイキシューズ革命 〝厚底〟が世界にかけた魔法』など。
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