検索

オリンピック2大会連続出場の土佐礼子は「高校生よりも遅い自分が生きる道」とマラソンを選んだ (3ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

【「あまりにも速すぎた」アテネの野口みずき】

 いよいよアテネ五輪の女子マラソンがスタートした。土佐はいつもどおりに先頭集団前方のポジションをキープした。なるべく自分のペースで走りたいし、集団を引っ張るのも好きだった。しばらく大きな集団でいたが、おそらく30kmから動きが出るだろうと予想していた。そこから、鈴木監督や土佐が勝負のポイントになると考えていた下りが始まるからだ。だが、その前に飛び出したのが野口だった。

「(金メダルを獲った)野口さんが25km過ぎに前に出た時、じんわりついていこうと思ったんです。でも、あまりにも速すぎて。まだ17kmぐらい残っていたので、ついていったらもたないなと思って、ついていくのはやめました」

 土佐は、前半の上りで疲労がかなりきている状態だったこともあり、ペースアップした野口についていくことを自重した。

「(銅メダルを獲った)アメリカのディーナ・カスター選手に後半の下りですごい勢いで抜かれて、それにもついていけなかったです。その後は、ほぼひとりで走っていました。沿道から、高校時代の恩師が声をかけてくれたのはわかったのですが、監督はどこにいるのかわからなかったですね。最終的に5位に入賞できたのですが、自分のなかでは『走れなかった。勝負できなかった』という印象が強かったです。それがすごく悔しくて」

 自分を含めた日本選手3人が全員入賞(坂本は7位)できたことに安堵しつつも、ゴール後、スタンドに向かって歩いていくときにあちこちから「おめでとう」と声を掛けられるも、「(それを言うのは野口さんに対してで)私じゃないよ」と悔しさを噛み締めた。オリンピックという華やかな舞台で、自分の望む結果が出せたらどんなに気持ちいいだろうと思った。

「だから、すぐに次の北京五輪を目指そうと思えたんです。でも、次の北京五輪でメダルをと考えると実力不足だなと思いました。この頃から(女子マラソンは)スピードマラソンと言われていて、2時間19分台で走る選手も出てきていました。そこに行くにはスピードが足りないですし、スピードがないとこれから世界と勝負するには難しくなる。それはオリンピックの前から思っていたのですが、あらためて実感しました。

 チームにシブ(渋井)がいたので、自分にスピードがないのがよくわかるんですよ。自分でも自覚していたので、それからはトラックでのスピード練習にも意欲的に取り組みました」

3 / 4

キーワード

このページのトップに戻る