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増える移籍、多様化する契約形態...日本のマラソン&駅伝人気を支える実業団の現在地 「プロ化=すごい」でいいのか? (3ページ目)

  • 佐藤俊●取材・文 text by Sato Shun

【監督はいまや指導者というよりもマネージャー】

 そうして選手の環境が変わりつつある中、実業団の監督やコーチに求められるものも変わりつつある。

 実業団に加入した選手は駅伝を走るが、それ以外は個人種目に集中し、自分で考えたメニューをそれぞれで消化しているので、普段は監督とそれほど関わることがない。監督からすれば、合宿同行、駅伝の出走メンバー決定といった仕事はあるが、肝心の指導をする機会が少なく、監督という仕事の定義がわかりにくくなってきている。

「実業団は今後、より選手主導になっていくでしょう。そこで重要になってくるのが、選手の要望にいかに応えられるかということです。監督やコーチは指導実績や経験よりも、選手の要望を受け、予算などで会社との折衝をしっかりとできる。そんなマネージャー的な能力が高い人が求められていくのではないでしょうか」

 スカウティングの際も、選手の要望をいかに実現できるか。給与面とともに環境面が、選手が実業団を選考する際の最重要ポイントになっていくだろう。ちなみにコモディイイダは、基本的にスカウティングは行なっていない。

「基本的にわれわれから『お願いします』という話はしません。われわれの場合は、(他チームを)戦力外になって、後がない状況で来るケースが多いのですが、そこで採用するかどうかは持ちタイム以外に、やるならここでしかないという覚悟を決めたかどうかです。そういう覚悟もないのにわがままな主張だけをする選手は採りません。

 あと、前のチームではこうだったと主張する選手もダメです。そこで結果を出せなかったから、ここに来たんじゃないのっていう話ですし、実際、そういう選手はすぐにやめていきます。われわれ(のような予算規模の小さいチーム)は本当に育成していくしかないですが、陸上のすそ野を広げるという意味でも存在価値があるのかなと思っています」

 日本の陸上界を支えてきた実業団のあり方は契約形態の変化とともに、さらに多様化していきそうだ。

>>>「日本の駅伝文化を支える外国人ランナーたちのリアル 日本語も仕事も覚えたのに引退すると滞在ビザを取得できない...」も読む

著者プロフィール

  • 佐藤 俊

    佐藤 俊 (さとう・しゅん)

    1963年北海道生まれ。青山学院大学経営学部卒業後、出版社を経て1993年にフリーランスに転向。現在は陸上(駅伝)、サッカー、卓球などさまざまなスポーツや、伝統芸能など幅広い分野を取材し、雑誌、WEB、新聞などに寄稿している。「宮本恒靖 学ぶ人」(文藝春秋)、「箱根0区を駆ける者たち」(幻冬舎)、「箱根奪取」(集英社)など著書多数。近著に「箱根5区」(徳間書店)。

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